自転車洋品店 ナリフリ(設計/dot architects)


商店建築ブログをご覧頂きありがとうございます。
取材で京都へ行ったのに合わせ、新しいお店をいくつか見学しました。
都市圏の大きさで比べると、京都は東京よりも大分小さいのですが、
それでも新しいお店が次々とできていく様からは、都市の勢いというか、強さのようなものを感じます。

訪れたお店の多くから感じたことは、「京都の店舗は常に京都らしさと向き合っている」ということ。

その土地の状況や周辺環境と向き合うことは、京都に限らずどの場所でも重要ですが、
それだけではなく、言い換えるなら「常に『京都らしさ』という強い前提条件と戦っている」ように見えるのです。

そのことを踏まえて、実際に見てきたお店をいくつかご紹介したいと思います。


エルベシャプリエ京都別館(設計/丹青社)。築およそ100年の町家を改装したファッションストア。


1階ではバッグのオーダーに対応し、2階はセレクトショップとなっています。奥に見える階段と、階段室の2階部分の区画は新設したそう

まず一つ目は「エルベシャプリエ京都別館」。
舟型のトートバッグで有名なフランスのブランドショップです。
およそ築100年の町家を改装したこちらの店舗は、1階がオーダーに対応するラウンジ、
2階がセレクトショップとなっています。
丹青社による設計で、2軒隣には9月号で掲載する「ISSEY MIYAKE KYOTO」があります。

床の高さは元のままですが、フローリング貼りにして靴を履いたままで店内に入ります。
規模の大きな町家に商品の数も抑えてゆったりとしています。
そこここにコルビュジェや柳宗理らによる名作イスが置かれ、贅沢な空間が広がります。

商品を所狭しと並べるのではなく、余白で空気感を生み出しているかのよう。
主役はもちろん商品ですが、それを前に押し出すのではなく、什器や家具と合わさって風景をつくっています。


オーダーした商品は、台所を転用したカフェスペースで待ちます

町家が持つ文脈の力はとても強く、「町家を改装したお店」以上にはなっていない場合もあるように思います。
または、町家のイメージだけを利用しようとした「天ぷら建築」のようなものも多くあるでしょう。
しかしここでは、「新設した階段室」や「台所からカフェスペースへの転用」など、
些細な読み替えによって空間を更新し、加えて家具や什器を合わせることでブランドのイメージも重ねています。
その手法は、ただ町家を残すだけではなく、新しい価値を持ち込むことにも効果的に働き、
100年前の古いものとモダンな家具、それから新しい商品までをシームレスに繋げています。
「京都らしさ」は残しつつ、そこに囚われない軽やかさがあります。


自転車洋品店 ナリフリ(設計/dot architects)は、町家の看板建築を転用したお店


古い、荒々しい素材と新しい素材が混在しています


店の奥には小さな庭も

次にご紹介するのは、dot architects設計の「自転車洋品店 ナリフリ」。
ブログの一番始めの画像もこの物件です。
自転車の街乗りのため、機能とデザインを併せ持った商品を提供するファッションブランドの新店舗で、8月10日にオープンしたばかりです。

足元の石畳や建具、家具など荒々しい表情を持った既存の状態に対して物怖じすることなく様々な素材をぶつけています。
新たに持ち込まれた素材も、木や銅など、町家と親和性の高い素材で、そのため「生まれ変わった」というよりも「引き継いだ」ような雰囲気です。
新しいものの「新しさ」が隠されずに存在し、そこに更に商品が入ることで、決して広くないショップ空間の密度はグンと上がります。
継ぎ接ぎをしながら更新していく様は伝統的でありつつ、ただ既存のルールに縛られすぎない自由さは非常に現代的です。


JOURNAL STANDARD KYOTO 御倉町 & CAFE M(設計/koyori)町家を転用したファッションストア兼カフェ。ヴィーガンスイーツなどを提供しています


「商店建築」9月号掲載のファッションストア「lloomm」(設計/ninkipen!)

町家の数は年々減少していますが、その中で、古いものを現代的に受け継いでゆく更新の方法には大きな可能性を感じます。
使われなくなった町家が店舗として生まれ変わり、訪れた人にとって「町家がある風景」が当たり前になれば、「京都らしさ」そのものも更新されていくのではないでしょうか。〈平田〉

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商店建築2018年8月号
業種特集1/進化し大型化するフードホール
業種特集2/ハイエンドカフェ&カジュアルダイニング
特別企画1/デザイン意図が伝わる、プレゼンテーション&コミュニケーション術
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