もうご覧いただきましたでしょうか。「商店建築7月号」。
発売からちょうど一週間。
好評をいただいており、ありがとうございます。

こんな声を耳にしました。「7月号、なんかいつもと違うね!」
はい、その理由は、特集の構成にあります。
 
通常、「商店建築」の中身は、三つのコンテンツで構成されています。
「巻頭の新作特集」「業種特集(ホテル、レストラン、美容室など、業種や業態で近作を紹介する特集)」「企画特集(家具特集、プレゼン特集、照明器具特集などのオリジナル企画)」。
この三つです。
月によっては、そのうち二つで構成する号もあります。「新作特集+業種特集」、あるいは「業種特集+企画特集」。
ところが、7月号では「業種特集」がないんです。
そのかわり、「新作特集+企画特集」という珍しい構成です。なぜかというと、大型新作プロジェクトが目白押しだったからです。それが、「いつもと違う」特別感の理由です。
 

その大型新作の中から、今日は「東急プラザ 表参道原宿」についてご紹介します。
このプロジェクトは、国内外の建築家5組で争った指名コンペでした。
こうした注目の大型プロジェクトのコンペで、弊誌をご覧の皆さんがいつも気になるのは、「どうしてその設計者の案が一等に選ばれたのか」という点ではないでしょうか。
このプロジェクトでは、「建物の構成」と「動線計画」が決め手でした。
 
この建物は、珍しい構成になっています。上半分と下半分が、別のもののように見えます。下半分(路面テナント部分)は、テナントがファサードまで自由にデザインできる仕組みです。
一方、上半分(テナントと屋上庭園)は、宙に浮く巨大な塊。樹木が植えられており、道路からそれを見上げると、「あの上に上ってみたいなぁ」と人々が思う仕掛けになっています。
次に、動線計画。
お客さんは、なんとなく3階へ、そしてそのまま6階(屋上庭園)へと上がってしまいます。そう、なんとなく、です。
おそらくお客さんは、いつ建物の中に入ったのか、ほとんど意識していません。そのぐらい、なんとなく、吸い込まれていきます。
こうした「構成」と「動線」は、収益性と集客性に結びつきます。
 
開発当初からプロジェクトに関わってきた東急プラザ表参道原宿の支配人、大久保次朗さんは、こう言います。「我々は不動産賃貸業であり、お客様であるテナントにリスペクトされる建物や仕組みをつくる責任がある」と。
この要求に最もストレートに応えたのが、設計を手掛けた中村拓志さんの案だったそうです。
つまり、この建物は、商業的に優れた施設というわけです。
詳しい仕掛けやコンペの経緯については、7月号に掲載の図面、写真、記事(P.117)をご覧ください。中村さんの案の何がクライアントの心を掴んだのか、お分かりいただけると思います。
 
  
さて、ここで、もしかすると、「集客性や収益性さえ高ければ、それでよいのか?」と疑問を持つ方がいらっしゃるかもしれません。
そうです、「商売繁盛」以外に、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
建築の社会性です。
建築物をつくる以上、その社会や地域を少しでも幸せにする建築であってほしい。特に、これほど公共性の高い立地では。
 
社会性は、このプロジェクトでも大きなテーマでした。中村さんは、それを「ボトムアップの公共性」「緩いプライベート/緩いパブリック」「これからの公共性は民間施設がつくっていく」という言葉で明快に語っています。インタビュー記事(P.116)をご覧ください。
そして、その思いは、とりわけ屋上庭園「おもはらの森」に反映されています。それは、複雑な高低差を持ったテラス。考えようによっては、事業者が「客がケガしたらどうするのか」という理由で却下してもおかしくないような挑戦的なデザインです。しかし、大久保さんらは、「このアイデアを不採用にしてしまったら、『人々が滞留できる心地良いスペースを生み出す』という当初のコンセプトが実現できない」と考えました。その結果、極力安全を確保しながら、すり鉢状のテラスが実現させました。
  
「商業の論理」を理解して語ろうと努力する建築家。
「建築の論理」を理解して語ろうと努力する事業者。
この歩み寄り。
ここに、個性ある商業施設を生み出すヒントが示唆されています。
 
最後に一つ。
記事には書かなかったのですが、もし建築の設計思想や設計手法に興味のある方には、中村さんの著書『微視的設計論』(INAX出版)をオススメします。この著書で語られている思想や手法が、東急プラザ表参道原宿の建築の随所で実現されています。
 
おっと、とても興味深いプロジェクトだったので、紹介が少々長くなってしまいました。。。申し訳ありません。
 
さて、この原宿から一駅電車に乗れば、同じく東急系列の大型プロジェクト「渋谷ヒカリエ」(P.118)も見られます。ぜひ合わせてどうぞ。
その際は、片手に「商店建築7月号」を携えて、設計者の方々によるコメントや図面と見比べながら、空間を体験してみてください。プロジェクトの背景を立体的に理解していただくことができます。そして、その立体的な理解が皆さんの次のプロジェクトに生かされ、そのプロジェクトをまた弊誌で取材できることを楽しみにしております。〈塩田〉


施設内へ入っていく人々。ミラー張りのエントランスをくぐること自体が楽しい体験となる


屋上庭園「おもはらの森」。すり鉢状のテラスには「ボトムアップの公共性」(中村さん)を具現化しようという思いが込められている


表参道原宿エリアの顔となる重要な立地に立つ


設計者の中村拓志さん


これ、どこか分かりますか? 117ページのカットを撮っているところです。脚立の上にのっているのは、写真家の佐藤振一さんです



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新作 東京スカイツリー / 東京ソラマチ /
   東急プラザ 表参道原宿 / 渋谷ヒカリエ
特集  オリジナル家具と什器のデザイン

2012年06月28日発売
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