いつも「月刊 商店建築」オフィシャルブログをお読みいただき、ありがとうございます。
編集長の塩田です。

本日のテーマは、正しい「設計依頼のしかた」です。

このブログは、いつもは設計者の皆さんに向けて書いています。
でも本日は、珍しく、設計者さん向けではありません。
クライアントさんに向けて書きます。

  
クライアントというのは、施主とか店舗オーナーの皆さんのことです。
つまり、デザイナーに設計依頼をする立場の人ということです。
取材や飲み会などでクライアントさんにお会いする機会も多く、そんな中で、「設計依頼のしかた」に関する認識は人によってかなりマチマチで、デザイナーさんに設計依頼へ行く前に「設計依頼していいのだろうか」と不安な気持ちを抱えているクライアントさんも少なからずいるのだと感じます。
そんなわけで、本日は、「設計依頼のしかた」について書きます。


今日は、けっこう真面目に書きます。(いや、いつも真面目なんですが、今日は、いっそう真面目です)
内容がハードです。
写真も少ないです。
読むのが、少々面倒くさいかもしれません。
ですから、ご興味ある方だけ、お読みください。


なぜ、空間デザインの話ではなく、「設計依頼のしかた」なんていう話題で書くのか。その理由を、このブログの最後で改めて説明しますね。

 
 
さて、さっそく本題に入ります。
インテリアデザイナーや建築家の方々に店舗の設計を依頼する時、クライアントはどんなスタンスで依頼すればよいのか。
そこにポイントを絞って書きます。
 

いきなり結論から書きます。
「○○さんに設計してもらったら、繁盛店が出来ますか?」という発想は、今すぐ捨てましょう。
これが、私からクライアントの皆さんへお伝えしているメッセージです。
 
 
もう少し詳しく書きます。
毎月の取材やリサーチをする中で、デザイナーさんに設計を依頼したクライアントさんに会う機会があります。
クライアントさんたちと雑談していると、こう聞かれることがあります。
「○○さんに設計してもらったら、繁盛店が出来ますか?」
「○○さんに家具のデザインをしてもらったら、売れますか?」
「誰に設計を頼めば、うまくいきますか?」

(○○の部分には、著名なインテリアデザイナーや建築家のお名前を入れて読んでくださいね)


 
これらの質問をされたら、いつもこのように答えます。
「まず、その発想を捨ててください。その発想でいる限り、どんな敏腕デザイナーさんに依頼しても、うまくいきません」
(あっ、実際にはこんなストレートな”叱り口調”ではなく、もう少しオブラートに包んでお伝えしています。。。)
 
 
 
そして、「その発想を捨て、代わりに『覚悟』を持ってください。デザイナーに設計依頼するには、クライアントであるあなたに『覚悟』が必要です」と伝えています。
 
これだけでは、ちょっとわかりにくいと思いますので、以下のような例え話もしたりします。
「デザイナーに設計依頼するということは、Jリーグのチームにイニエスタを入れるのと同じようなものですよ」

この例え話では、「デザイナー=イニエスタ」として読んでくださいね。

「○○さんに設計してもらったら、繁盛店が出来ますか?」と聞く発想は、サッカーチームの監督が「うちのチームにイニエスタを獲得したら、優勝できますか?」と聞くのと同じです。
イニエスタが加入したからといって、それだけで優勝できるわけではありませんよね。サッカーは11人でプレーするからです。
イニエスタが加入したら、チームメイト、監督、コーチ、フロントは、ラクできるでしょうか。
いや、むしろ、逆のはずです。むしろ、大変なはずです。
なぜならイニエスタは、試合においても練習においても契約においても、チームメイトや首脳陣に世界トップレベルの水準を要求してくるはずだからです。
イニエスタはたぶん、「Jリーグだから、このくらい緩いパスを出しておけばいいや」なんて妥協しくれません、たぶん。常に本気で世界レベルのプレーをするはずです。
チームメイトや首脳陣は全力でその要求レベルに応えねばなりません。
その要求に応えることは、かなり大変なはずです。レベルの高い作業のはずです。努力や工夫や情熱が必要です。
けれど、そのレベルに応えることができれば、優勝できる確率は高まるでしょう。

 
 
話を戻します。
デザイナーは、設計プロジェクトにおいて、上記のイニエスタと同じような存在と言えます。
多くの実績を残してきたトップデザイナーであれば、なおさらそうです。

あなた(クライアント、施主、店舗オーナー)が、トップデザイナーに設計依頼をすると、そのデザイナーさんは、手を抜かずに本気でデザインを提案してくれます。
あなたのビジネスのことも本気で考えて、いろいろな提案をしてくれます。
特に、「問題を解決する」「新しい価値を生み出す」という点を重視しながら、いろいろな提案をしてくれます。
では、クライアントであるあなたは、ラクできるでしょうか。「この人に設計依頼したのだから、あとはお任せでいいや」と、あぐらをかいて待っていてよいでしょうか。いえいえ、いけませんよね。むしろ逆です。あなたは大変になるかもしれません。
なぜなら、デザイナーさんは、創造的な提案をしてくれると同時に、あなたにも高いレベルの要求をするかもしれないからです。
例えば、以下のような要求です。
「この店のこの部分に、余白やディスプレイスペースを設けて、このような使い方ができるようにしようと思う。このスペースを使いこなしていくために、御社の店舗スタッフにこんな工夫や協力をして欲しい」
「こういうふうにオペレーションを変えると、店の特徴がしっかりお客さんに伝わるけど、変えられますか」
「このプロダクトの魅力をお客さんに伝えるために、御社の営業マンは、こんな営業ツールを使ってこのようなプレゼンテーションをしてみて欲しい」
わかりやすく書きましたが、例えば、こんなイメージです。
 
  
こうしたデザイナーから施主への要求というのは、「要求」というより、デザイナーから施主へ向けたメッセージです。
どういうメッセージか。
「少し難しいチャレンジだが、こうしたら、問題を解決したり新しい価値を生み出したりすることができる。だから、一緒に挑戦してみよう」
そういうメッセージであり、誘いなのです。
あなたと、あなたの店の社員やスタッフは、全力でそのメッセージに応えねばなりません。
その要求に応えることは、かなり大変なはずです。レベルの高い作業のはずです。運営や経営において、努力や工夫や情熱が必要です。
けれど、そのレベルに応えることができれば、繁盛や成功の確率は高まるでしょう。


 
 
あなたは、デザイナーからのそうしたハイレベルなメッセージや要求に本気で応える「覚悟」はありますか。
もし、ないなら、デザイナーさんに依頼するのはオススメしません。良いプロジェクトにならない可能性が高いからです。
もし、「覚悟」があるなら、トップデザイナーさんにも思い切って設計依頼しても大丈夫です。
ビビる必要はありません。
よく経営者の方々から、「うちのような企業が、雑誌にいつも載っているこんなデザイナーさんに設計依頼していいんですか」と言う声を聞きます。でも、心配いりません。
上記のような「覚悟」があれば、あなたの会社の大小にかかわらず、デザイナーの方々は、あなたからの依頼や相談に真剣に耳を傾けてくれます。
 
 
なぜ、自信を持って、こんなことが言えるのか。
それは、日々、たくさんのデザイナーの方々に取材でお会いする中で、デザイナーさんたちがどんなマインドを持って仕事をしている人たちなのかということを体感的にわかっているからです。時には、デザイナーとクライアントの打ち合わせの現場やプレゼンテーションの場に同席させてもらう機会もあります。そうすると、デザイナーとクライアントがどんな関係を築けば、良いデザインを生み出せるのかも徐々に見えてきます。
だから、今日はこんなブログを書いてみたわけです。
 
ついでに、上記の「覚悟」に加えて、もう一つだけ補足しておきましょうか。
それは、あなた自身が、自社の商品やサービスに対して「良い商品やサービスを全力でお客さんに提供している」という自負を持っているかどうかです。デザイナーさんと対等なパートナーとして店づくりをしていくためには、この自負も必要です。
 
 
おさらいしましょう。
まとめると、こうなります。
「デザイナーからのメッセージに応える覚悟」
「自社商品への自負」
デザイナーさんに設計依頼する前に、この二つをあなたが持っているか、いま一度チェックしてみてください。

「設計料」や「納期」の話は、その後です。
  
私としては、クライアントとデザイナーがより良い関係を構築し、素晴らしい店舗デザインがたくさん生み出されたらいいなと考えているので、「設計依頼のしかた」に関して、一度ブログでお伝えしようと思っていました。






 
 
すみません、また長文になりましたね。
あと5分だけお付き合いください。
冒頭に書いた疑問に対する答えを書きます。
おぼえていますか?
なぜ「設計依頼のしかた」なんていう話を書いたのか、という疑問に対する答えです。
それは、「月刊 商店建築」という雑誌のミッションと関係しています。
店づくりに関わる実務設計者の方々のために、店づくりの参考資料を提供し、蓄積していく。
これが、「月刊 商店建築」のミッションです。
今では、実務設計者の方々だけでなく、クライアントさん(店舗を開発・経営・運営したりする方々)も多く読んでくださっています。
  
平たく言えば、小誌は、「お店づくりに関わる人を応援するマガジン」であるということです。
小誌の具体的な内容としては、写真を中心にして、最新の店舗空間デザインを見せる。これに尽きます。
けれど同時に、「お店づくりに関わる人を応援するマガジン」ですから、それに加えて、「お店づくりに関わる人」が、お店づくりの過程で気になることや疑問に思うことに関しても、できる限り情報提供をしよう。そういうビジョンを持って編集しています。
そのビジョンは編集部全員が共有しているので、例えば、編集部のメンバーは、以下のような特集を発案したり制作したりしています。
直近の例を四つ挙げますね。
 
 



2018年7月号
 特集「D.I.Y. & COST CONTROL DESIGN 付加価値を生み出すコストコントロール設計手法」

https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=316

2018年8月号
 特集「デザイン意図が伝わる、プレゼンテーション&コミュニケーション術」

https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=318

2018年9月号
 特別企画「改めて、設計料を考える」
 緊急特集「杉本貴志の商空間デザイン(前編)」

https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=320

2018年10月号
 緊急特集「杉本貴志の商空間デザイン(後編)」

https://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=322


 
 
イメージ、伝わるでしょうか。
これらの特集は必ずしも、最新の店舗デザインを写真で見せる、という誌面ではありません。
けれど、「お店づくりに関わる人」がこれらのテーマについて知っていると、より良い空間デザインができるのではないか。そんなモチベーションに基づいて制作しました。
このモチベーションは、実は、63年前の創刊当時から、弊誌にあるんです。例えば、創刊当時の誌面を見てみると、「相談室」なんていう連載コーナーがあったんですよ。
これです↓。弊社の書庫でバックナンバーを引っ張り出してみました。^^;


かつての連載コーナー「相談室」

これは、先ほど書いた、「お店づくりに関わる人」がお店づくりの過程で気になることや疑問に思うことに関して情報提供する、というスタンスから生まれた連載と言ってよいと思います。
 

つまり、小誌の場合、63年間、同じスタンスで誌面制作しているということですね。
というわけで、今後ともどうぞよろしくお願い致します。m(_ _)m
今日は、ここまで。
 
今日の話は、「最新の空間写真を中心にしつつも、それ以外の情報も積極的にお届けしていきます」という話でした。
その一例として、「設計依頼のしかた」について書いてみました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。〈塩田〉
 
  
  

  
  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本で唯一、店舗デザインの最新事例とセオリーが学べる月刊誌「月刊 商店建築」。
最新号は2018年10月号。
こちらでも、目次のチェックやご購入ができます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


商店建築2018年10月号
業種特集/オフィス大特集
緊急特集/杉本貴志の商空間デザイン(後編)
特集/シーンをつくる音響デザイン
表紙:コクヨ 品川シーズンズテラス オフィス

2018年9月28日発売
¥2,100



RSS2.0