「商店建築」8月号に掲載の「イソップ東京店」。空間デザインは、シンプリシティの緒方慎一郎さん。素材感や雰囲気だけでなく、プランニングも秀逸。必見のショップです

こんにちは。
毎月ご愛読ありがとうございます。
本日のテーマは、「イソップ出店をめぐる秘密」です。


最新号、「商店建築」8月号

ご好評いただいている最新号「商店建築 2016年8月号」。
巻頭の新作特集に、スキンケアブランドのショップ「イソップ東京店」(P.58)が掲載されています。
これは、東京の旗艦店となる重要な位置づけのショップ。
空間設計は、これまでもイソップの店舗を多数設計してきた、シンプリシティの緒方慎一郎さんです。
  
そう聞いて、店舗デザインに携わっていらっしゃる皆さんは、イソップの店舗がいくつか頭に浮かんだのではないでしょうか。
日本に直営店が18店。どれも、個性的な店舗デザインです。青山、丸の内、六本木などをはじめ、京都、大阪、福岡にも店舗があります。
では、イソップがどんなふうに出店地を選んでいるか、ご存知ですか?
私は、イソップの店舗を見ながら、以下の2点がずっと気になっていました。
・出店地をどのように選んでいるのか。
・複数のデザイナーに設計依頼しているが、どのように起用し分けているのか。
  
 

今回、「東京店」の取材を機に、その疑問を解決し、読者の皆さんと共有したいと思いました。
そこで、イソップ・ジャパンの出店を統括するマネジャーの春日亜希さんに、その疑問をぶつけてきました。
そのインタビューを、「商店建築 2016年8月号」の63ページに掲載しています。
当初聞こうと思っていた話題以外にも、「なぜイソップは、初めて出店する都市には、2店舗同時に出店するのか」など、重要な出店戦略に関わる構想を披露してくださいました。
 
ところが、です。
春日さんがとても貴重な出店戦略に関する考え方を包み隠さず話してくださったので、お載せしたい話題がたくさん飛び出し、紙幅が足りなくなってしまいました。すみません。
そこで、今回は珍しい試みとして、その誌面でのインタビューの「ノーカット版」を、このブログでお載せします!
 
正直に言うと、実は、いつも誌面を制作しながら、心苦しいんです。
『商店建築』は紙媒体ですから、誌面には物理的な制約があります。無制限にページを増やせるわけではありません。そのため、非常に濃密で面白いインタビューができた時には、泣く泣くカットしてしまう話題もあります。そんなわけで、いつも、「インタビュー時に聞いた面白い発言のすべてを載せることはなかなか難しく、心苦しいわけです。
ですので、今回は、ノーカット版をこのブログでお載せします。
では、お楽しみください。(非常にマニアックな楽しみ方としては、誌面に掲載されたインタビュー記事と、このノーカット版を読み比べていただき、いったいどの部分がカットされたのかを知るのも、面白いかもしれません)

 
 
 
ーーーーここからインタビューのフルバージョンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 

*******************************************************************************************
*******************************************************************************************
イソップ・ジャパン 春日亜希さんに聞く
〜〜 なぜ2店同時に出店し、なぜ複数のデザイナーを起用するのか 〜〜
*******************************************************************************************
*******************************************************************************************


オーストラリア・メルボルン発のスキンケアブランド「イソップ」。1987年に、美容師だったデニス・パフィティス氏が創業。今や世界20カ国に展開し、日本に直営店が18店。日本のフラッグシップストアとなる今回の「東京店」は17店目。
日本では、どのように出店地を選んでいるのか。なぜ複数のデザイナーを起用しているのか。日本1号店の出店時からイソップ・ジャパンでカントリーマネジャーを務める春日亜希さんに聞いた。

取材・文/編集部



  
「気に入ったカフェやパン屋」のように

ーーー日本への出店は、どのように始めたのですか。

日本の場合、イソップの商品は90年代からセレクトショップなどに置かれていました。しかし、もっとブランドとしてしっかりと認知してもらいたいと考え、2010年から日本に直営店を出し始めました。その頃、創業者のデニス・パフィティスは私にこう言いました。「誰にでも日常生活の中で気に入ったカフェやパン屋があるだろう。そんな風に地域に馴染む店にしたいんだ」。デニスが出店にあたって最も重視するのは、各国の出店地に密着し、地域の生活に入っていくということなんです。

ーーー店舗展開の担当者は日本にもいるのですか。

はい。日本での出店は、私が統括し、出店地選びから行っています。
ブランド全体では、店舗展開に関わるデザインチームが本国に2人。統括者がアジア、ヨーロッパ、アメリカに1人ずつ。更に、出店する各国にストアデザインチームのコーディネーターが1人います。また、各国のカントリーマネジャーがその全体を管理しディレクションしますが、カントリーマネージャーは、本国から派遣されたりすることはなく、必ずその国の人が務めます。それは「地域に密着した店舗展開」というデニスのビジョンを実現するためです。


イソップ青山店(11年10月号掲載)。設計/スキーマ建築計画 撮影/Alessio Guarino

 
 
2店同時で、偏らない出店戦略

ーーー日本1号店の青山店(11年10月号)は、なぜ裏通りに出店したのでしょうか。

その地域に根付いている地元商店やコミュニティーがあり、なおかつ多くのトラフィック(人通り)があること。そして、1店舗目なので、ものすごくコンセプチュアルなことができそうな場所。それでいて賃料が高過ぎない。それを条件にあの場所を探しました。

ーーーその後、日本で次々と店舗を増やしていきますね。

10年頃、イソップのグローバル展開が加速し、パリではサントノレ通りについに出店しました。そのタイミングで「日本でも一等地の銀座に路面店を」と、銀座に路面店を出したのが2店目です。「銀座レンガ通り」にちなんでレンガを用いたデザインで街並みに馴染む店舗です。
青山と銀座でコンセプチュアルな店をつくりコアなターゲットにブランドイメージを伝えた後、出店戦略として、「裏通り」とは対照的に、あらゆる客層が訪れ、トラフィックがある商業ビルへ展開しました。それが、2012年の「新丸ビル店」「横浜ベイクォーター店」です。こうして路面に2店、商業ビルに2店と、バランスをとりました。



イソップ京都店(14年2月号掲載)。設計/SIMPLICITY 撮影/ナカサ&パートナーズ


イソップ河原町(14年5月号掲載)。設計/トラフ建築設計事務所 撮影/太田拓実

  
  
ーーー更に東京以外の都市へ進出します。

13年、京都に2店オープンしました。「京都店(三条)」(14年2月号)と「河原町店」(14年5月号)です。その後、「心斎橋店」「グランフロント大阪店」と大阪に2店を同時出店。「アミュプラザ博多店」「福岡店(天神)」で福岡にも2店をほとんど同時に出店しました。
初めての街へ出店する時には、2店同時に展開しています。それには意味があります。まず、裏通りとショッピングモールのように補完的な特性の立地に出店できる。また、デザインとしては、例えば、伝統的な日本の美意識でつくられた「京都店」と、現代アートのような「河原町店」といったように、異なる性質の空間デザインを展開できます。そうすることで、ブランドのイメージが固定化し過ぎてしまうことを避けています。オペレーション上も、1店舗より2店舗の方がサポートし合えて好都合です。

ーーー渋谷近辺のエリアには多く出店していますね。

出店地の選択に際して、「今、捉えきれていないターゲットは誰か」という観点も重視しています。例えば、渋谷・明治通りに出店して、若いファッショナブルな男性客に訴求したので、次の段階として「原宿・青山エリアの若い女性にも伝えたい」と考え、その数年後に青山通り沿いに「南青山店」を出しました。ただし、あまり同じ街に出店し過ぎないようにも心掛けています。ブランディングがぶれるのではないかと、お客様が不安になってしまう可能性があるためです。

ーーー今回の「東京店」についてはいかがですか。

今回は、中目黒に出そうと決めて、3年前から私が出店地を探していました。1号店と同様に、人通りもネイバーフッドもあり、住宅と商業のミックス感がある。都市的でありながら地域コミュニティーがある。そうした条件で探したのが今回の立地です。つまり、6年前にはそのような場所が青山の裏通りだったのですが、今ではそれが中目黒になっているという印象を持っています。


「原石」のようなデザイナーに依頼していく

ーーー店舗デザインにあたり複数のデザイナーを起用していますが、どのように選んでいるのでしょうか。

今、消費者は、バブル経済の時代を知る人達から世代交代して、飾りや表層にではなく、自分の生活の本質的なところにお金をかける世代が主流になってきていると感じます。そうした価値観を表現できる設計者の方々に依頼することが多いです。
1号店は、それに加えて、東京生まれ、東京育ちで、「東京らしさ」を表現できそうな東京出身の建築家の長坂常さん(スキーマ建築計画)に依頼しました。



イソップ 新丸ビル店(13年2月号掲載)。設計/トラフ建築設計事務所 撮影/太田拓実


イソップ ニュウマン新宿店(16年7月号掲載)。設計/トラフ建築設計事務所 撮影/太田拓実


イソップ 札幌ステラプレイス店(16年7月号掲載)。設計/ケース・リアル 撮影/太田拓実

 

ーーーその後、他のデザイナーも起用しますね。

その後の店舗では、本国のデザインチームも注目していたトラフ建築設計事務所に「新丸ビル店」(13年2月号)「横浜ベイクォーター店」「河原町店」「東京ミッドタウン店」など、最近では「ニュウマン新宿店」(16年7月号)「仙台パルコ2店」の設計依頼をしました。「京都店」からは緒方慎一郎さん(シンプリシティ)にも依頼しています。特にデニスと緒方さんは深く意思の疎通ができていて、「心斎橋店」「福岡店」「アミュプラザ博多店」「南青山店」「ランドマークプラザ店」、そして今回の「東京店」などを設計してもらっています。更に、「札幌ステラプレイス店」(16年7月号)では二俣公一さん(ケース・リアル)に初めて依頼しました。

ーーー日本の店舗は日本のデザイナーに設計依頼するという方針があるのでしょうか。

特にそうではありません。各国のスタッフも、日本のイソップの店舗を見て、日本のデザイナーに注目しています。
デザイナーの選定にあたり、本国の社内デザインチームから私のところに「日本のデザイナーなら彼らが面白いね」とデザイナーの候補が送られてくることもあります。イソップとしては、今後も、独自のテイストのある、「原石」のようなデザイナーと一緒に仕事がしたいと思っています。


イソップ グランフロント大阪店(14年8月号掲載)。設計/トラフ建築設計事務所 撮影/太田拓実

  
  
デザインテーマの設定

ーーー設計者に対してデザインテーマを提示するのでしょうか。

東京店の「1950年代の住宅」のようにテーマを設定する場合もあるし、しない場合もあります。ただし、その場所の歴史性はいつも重視します。例えば「心斎橋店」では、かつて心斎橋に水運や木場があったことから、材木を用いたデザインとなっています。
また、テーマという点で非常に重要だったのは、9店目「グランフロント大阪店」(14年8月号)と10店目「東京ミッドタウン店」です。どちらもトラフ建築設計事務所による設計で、大きな商業ビルへの出店です。その頃、イソップジャパンが企業としてある程度大きくなり、店舗数もスタッフ数も増え、改めて原点に返る必要がある時期でした。そこで、9店目では、お客様を温かく出迎えおもてなしするという根本に立ち返って、「土台をしっかり固めるようなデザイン」、10店目では、私達の原点である商品を生み出す現場になぞらえて「ラボ」をテーマにしました。こうして立地や、その時々のイソップの状況をテーマに反映させています。

創業者のデザインチェックは欠かさない

ーーー毎回、異なるテーマを設定したり、複数の設計者を起用していても、どのショップにも常に共通するデザインテイストも感じます。

それは、明確で詳細なデザインクライテリア(デザインの標準仕様)があるからです。その中には、「入店してすぐ、分かりやすいキーマテリアルがあって、質感を感じさせること」「照明の照度」「どんな順番で商品を見せるか」などが定められています。特に照度に関しては、デニスの強いこだわりがあります。
そして今でも、ストアデザインに対して、デニスのデザインレビューが必ず入ります。そこで設計者と交わされる議論は、ビジネスやオペレーションに関してよりも、デザイン的な美意識に関する内容です。私にはそばで聞いていても分からない感性の領域なのですが、デニスは、家具の微妙な配置などについて指摘します。

ーーーデニスさんは他にはどんな点をチェックするのでしょうか。

印象的だったのは、1店舗目の青山店。デニスは、エントランス扉のドアノブに関して、「ドアノブは、お客様が最初に触れるところ。触った瞬間に温もりと歴史が感じられる素材にしよう」と強く主張しました。基本的にデザインに関しては各デザイナーに任せるのですが、「河原町店」のように、「天井が高いので、何か光のモジュールを使ったらどうか」と初期段階で提案することもあります。


イソップ 東京店(16年8月号掲載)。設計/SIMPLICITY 撮影/太田拓実

  
  
今後も路面店とインショップをバランス良く

ーーー今後の展開について教えてください。

最新の店舗としては、7月に「仙台パルコ2店」がオープンしました。今後も路面店とインショップをバランス良く出店していきます。現在、世界に160店近い直営店があり、百貨店のインショップを含めると236店ありますが、アジアとアメリカはまだまだ開拓の余地があります。特に、アジア圏への出店には力を入れていて、香港には13店舗を出しています。
また、「東京店」では、併設のトリートメントルームが今年秋にオープンします。世界には数カ所ありますが、日本では初の試みです。これは、ビジネスというより、全身でイソップの世界観を感じてもらうことが目的で、どのくらいの量をどう使うかなど、店頭では説明しきれないより詳しい肌のお手入れ方法も伝えていきたいと考えています。〈了〉

 
ーーーーここまでインタビューのフルバージョンーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 

  
 


どうでしたか。
一貫したブランドイメージと商品イメージを維持しながら、同時に、空間デザイナーの力を借り、また彼らの力量を引き出し、毎回、独創的なショップをつくり続けていく。取材をしながら、それは店舗デザインの醍醐味の一つであるように感じました。
 
「商店建築」の誌面では、空間の実務設計に関する知恵や資料を掲載していくのはもちろんのこと、それに加えて、「出店戦略」「ブランディング」「デザイナー起用」といった“設計以前”の重要なステップに関する情報も、こうして読者の皆さんにお届けしています。
  
なお、「イソップ 東京店」の詳細な写真や図面は、最新号「商店建築 2016年8月号」58ページでじっくりご覧いただけます。
 http://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=274#p-link01
 http://www.shotenkenchiku.com/upload/save_image/%E7%9B%AE%E6%AC%A1.pdf
 
本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。〈塩田〉


  
  
  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本で唯一、店舗デザインの最新事例とセオリーが学べる月刊誌「月刊 商店建築」。
最新号は2016年8月号。
こちらでも、目次のチェックやご購入ができます。
 http://www.shotenkenchiku.com/products/detail.php?product_id=274#p-link01
 http://www.shotenkenchiku.com/upload/save_image/%E7%9B%AE%E6%AC%A1.pdf




【2016年8月号は以下のような方々にオススメです】
●「ブランドとしての一貫したイメージ」と「各店舗の個性」のバランスをどのようにとればよいかと考えている設計者の方々。
●一つのブランドで複数の店舗の展開を予定しているが、どのようなビジョンで出店していくべきか、と迷っている店舗オーナーの方々。




RSS2.0