六本木にオープンした「IMA Concept Store」


こんにちは。
毎月ご愛読ありがとうございます。

本日は、結論から先にお伝えします。
六本木にオープンした「IMA Concept Store(イマコンセプトストア)」。まだ見ていない方は、急いで見に行きましょう。空間づくりの仕事をされている方は、必見です。まずは長居して、その空間を堪能してみてください。そして同時に、「危機感」を抱いてください。

以上が、結論です。
ご興味ある方は、引き続き以下もご覧ください。


IMA Concept Storeの店内

イマコンセプトストア(商店建築6月号 P.194)は今年3月、東京・六本木のアクシスビル3階にオープンしました。
ギャラリー、ブックショップ、カフェ。この三つの機能が緩やかに融合した施設で、大変居心地がいいんです。正直申し上げて、「取材抜きで、今後も、客として何度も訪れてしまうだろうな」と感じる空間でした。
一度訪れると、写真集をめくったり、写真展を眺めたり、コーヒーを飲みながらちょっと仕事をしたり、ついつい長居してしまう施設です(カフェに電源とWi-Fiが用意されているのも非常に嬉しいポイントですね)。
この施設のテーマは、「アート写真」。そのテーマが、ギャラリー、ブックショップ、カフェという三つの機能を貫いているわけです。
運営するのは、株式会社アマナ。
 
もしかすると、アート系の写真にご興味のある方は、アマナが展開している雑誌「IMA」やウェブサイト「IMA ONLINE」をご存じかもしれません。その雑誌とウェブサイトのコンセプトは、「Living with Photography」。
イマコンセプトストアも同じコンセプトですから、「Living with Photography」を空間という形で具現化した施設というわけです。


IMA Concept Storeの店内。エントランス付近から

では、誰がこの空間を生み出したのか。
ディレクションを手掛けたのは、谷川じゅんじさん率いるJTQ。
設計を手掛けたのは、名和晃平さん率いる「SANDWICH(サンドイッチ)」。
二人がどんなコンセプトと共同作業を経て、この案にたどり着いたのか。詳細は、6月号の記事をご覧ください。直接取材しながら感じたのは、お二人が、強固でシンプルなコンセプトを共有していたことが、成功のポイントの一つだったのではないかということです。


谷川さんが昨年プロデュースした期間限定Tシャツショップ「UT POP-UP! TYO」

では、谷川じゅんじさんについて少々ご紹介しましょう。
谷川さんは、企業がお客さんに伝えたいメッセージを、空間というメディアを使って具現化するプロデューサーです。
昨年は、東急渋谷駅跡地の期間限定Tシャツショップ「UT POP-UP! TYO」(13年6月号)、「MARC JACOBS ICONIC SHOWPIECES EXHIBITION」(13年6月号)などのプロデュースを手掛けました。
現在も、ジャイル(東京・表参道)内のギャラリーで、谷川さんのプロデュースにより、ベルギーの革製品ブランド「デルヴォー」の期間限定ギャラリーが開催中です。
つまり谷川さんは、コンセプトやブランド理念を、人々にどのように体験してもらうか、ということをいつも考えている人なのです。


表参道で開催中の「デルヴォー」展も谷川さんがプロデュース

 
 
 
続いて、名和晃平さんについてご紹介しましょう。
現代アートに興味のある方なら、彫刻家としての名和さんの活躍をご存知でしょう。
東京都現代美術館で開催された大規模な個展「シンセシス」(11年9月号)は、鮮烈でした。
京都のホテル「アンテルーム」などでも、作品が展示されたり、グループ展のキュレーションをしたりしています。
しかし、名和さんのアトリエ「SANDWICH」は、彫刻作品や絵画作品の制作だけでなく、昨年から一級建築士事務所としても活動しているのです。既に、住宅や店舗の設計を手掛けています。



では、そんなお二人が目指したのは、どんな空間か。
誌面でじっくりお読みください。(P.197)
ポイントは、「プランニング」「可動壁」「家具のサイズ」「素材感」「居心地良さ」。
それらのポイントがビジュアルで理解していただけるように写真を撮影してきましたので、誌面の写真でじっくり観察してみてください。多くの発見があるはずです。


商店建築6月号の誌面

そして、もう一点。
この空間の面白さだけなく、もう一つ、皆さんにお伝えしたいことがあるんです。
それは、名和晃平さんが、商業施設の設計において、どんなことを考えているのか、という話です。
今回、2ページの単独インタビューを敢行しました。タイトルは、「『パッケージ化されたチープな快楽』」を超える空間は可能か」(P.198)。

インタビューを掲載した理由は、名和さんに以下の3点を聞きたかったからです。
「彫刻制作と建築設計にどんな違いがあるのか」
「空間設計でやってみたいのは、どんなことか」
「現代の商業空間デザインをどう見ているか」


名和晃平さん(撮影/高木康広)

名和さんは、国内外を飛び回る忙しい出張のさなかに、六本木で取材時間をつくってくださいました。そして、短い取材時間でしたが、実に的確に濃密に明快に、いま感じていることや考えていることを語ってくれました。
 
インタビューをしながら、非常に面白いと感じながら、同時に「危機感」も感じました。
そう、先ほど、冒頭で「危機感を抱いてください」と書きました。
どういうことか。
名和さんは、従来の「インテリアデザイン」「建築設計」という業界の慣習的な発想の、もっとずっと外側から発想して、インテリアデザインや建築設計に取り組んでいます。
だから、名和さんはこう話します。
「僕らの強みは、コンテンポラリーアートという何の制限もない世界で表現活動をしてきたこと。だからこそ商業空間というものに対して距離を持って客観的に見ることができ、今までになかった価値観やルールをそこに持ち込んでいくことができる」

特に名和さんはこれまでも、「現代を生きる人々が物事をどのように感知し、どんな環境の中で生きているか」という視点を強く持って、その知見を作品制作に反映してきた彫刻家です。そのことは、個展「シンセシス」などを見て、強く感じました。
 
おそらく、店舗デザインを手掛ける多くの設計者の方々は、設計をする際に次のような観点を中心にデザインを発想していくのではないでしょうか。
「どんな業種業態か」
「どんな客層か」
「どんな立地か」
「今のトレンドは、どうか」
「他社との差別化を図るためには、どうすべきか」
 
もちろん、こうした観点は重要です。名和さん自身も、そうした観点を持っています。
しかし、その上で名和さんは、インテリアデザインや建築設計という世界を、もっと遠く離れた場所から観察しているように見えました。いわば広く「現代社会の在り方」を観察している。その上で、ありうべき空間のデザインを考えている。そのことが、インタビューを通して伝わってきました。
 
つまり、「インテリアデザイン業界内の多くの設計者と異なる視点を持っているかもしれない」という点で、名和さんのような設計者の出現は、店舗設計を専門的に手掛けてきた方々にとって脅威になるかもしれません。
そんな脅威と刺激を皆さんと共有したいと思い、原稿を制作していました(P.198)。
できれば、このインタビューを2、3度、読み返してみてください。実は、私自身、原稿を書きながら、インタビュー時に録音した音声データを何度も聴き返しました。その理由の一つは、大変興味深い内容だったからですが、もう一つの理由は、日頃のインタビューで設計者の方々から聞くお話とは視点が異なっていたので、「原稿として、どうまとめるか」を思案するのに少々いつもより時間を要したためです。
 
けれど、考えてみると、店舗デザインというのは、異分野からの参入者によって、活性化されてきたとも言えます。ウインドウディスプレイやグラフィックデザインを手掛けてきた方々が店舗設計に取り組んだり、最近では、植物や植栽のコーディネートを専門とする方々や、アンティーク家具のコーディネートを得意とする方々が、店舗デザインに大きな刺激を与えています。
そんなわけで、名和さんが今後、どんな空間を設計していくのか、とても楽しみです。


名和晃平さんの著書。名和さんの思考と活動の履歴を知ることができます

 
 
 
最後に。
もう一度まとめましょう。
まずは、六本木のイマコンセプトストアを実際に訪れて、その空間を堪能してください。すぐに行く時間がない方は、「商店建築6月号」を要チェック。
その後に、改めて設計プロセスに関する記事(P.197)と名和晃平さんのインタビュー記事(P.198)を読み込んで、刺激とヒントと危機感を得てください。きっとあたなの明日のお仕事の原動力になります。


IMA Concept Storeの店内

日本で唯一、店舗デザインの最新事例とセオリーが学べる月刊誌「月刊 商店建築」。
最新号は6月号。
こちらでも、目次のチェックやご購入ができます。
 
本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。〈塩田〉
 
 
 
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月刊商店建築6月号
定価:2,040円(税込)
2014年5月28日発売
新作/コレド室町2,3
   エムハウス
特別企画/進化するライティングデザイン
業種特集1/日本料理店
業種特集2/ウェディングホール&チャペル



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