表参道と明治通りの交差点に面して、“森”が中空に持ち上げられた外観

「東急プラザ 表参道原宿」の内覧会に行ってきました。開業は明日、4月18日です。

設計を手掛けたのは、中村拓志さん(NAP建築設計事務所)と竹中工務店。まるでグラウンドフロアにあった樹木とテラスがそのまま上空に浮かび上がったような威容は、ルネ・マグリットの「ピレネーの城」を連想させそうな独特のバランス感です。表参道・原宿エリアに新たなランドマークの誕生です。

百貨店のような大規模施設と違って中規模であることや、中村さんの「樹木を優先する」というデザインコンセプトが実現されたことにより、施設の随所で屋内空間と屋外空間が関係性を持ち、「今、自分は表参道にいる」ということをつねに感じられる空間構成です。複合商業施設にありがちな閉塞感もありません。一つのまとまった建物というよりも、街路が上方に延長したような空間構成で、散策しながらショッピングする楽しさを味わえそうです。
また、共用空間にも各テナントにも、カフェ風やラウンジ風の空間が随所に設けられており、全体に今日的でゆったりした印象です。

まずは、中村さんが「万華鏡」と表現するエスカレーターのアプローチで3階へ。いつ屋外から屋内に入ったのか分からないようなシークエンスで、いつの間にか施設内にいます。実際には、2階部分に屋内外を仕切るシャッターがあるのですが、おそらく防犯や防災について関係者が議論や検証を重ねて、こうした構成が実現したのではないでしょうか。取材時に聞きたいところです。


2階の踊り場から「万華鏡」のエントランスアプローチを見返すと、道行く人々が増殖して見える


期間限定でショップが出現する、3階オモハラステーション


3階オモハラステーションに隣接するカフェテラス


グラムベイビーのキラキラグッズ


ブティック「Rady」のディスプレイ

さて、気づくと3階に。このフロアには、ポップアップスペース「オモハラステーション」があります。カフェ併設の物販スペースで、日本初上陸ブランドなどの期間限定ショップが出現します。来るたびに内容が変わっているかもしれません。第一弾は、ロサンゼルスのデニムブランド「ブルーラブ」。出店期間は、5月31日までです。隣接するカフェも表参道のケヤキ並木を目の前に感じられる気持ちいいテラスです。

3、4、5階には、「Rady」「Duras」「choosy chu」など若い女性向けのアパレルとファッション雑貨店が入っています。キラキラの雑貨を取り揃える「グラムベイビー」など、ギャルの皆さんのニーズに応えそうなショップもあります。向かいに立つラフォーレ原宿と合わせてショッピングを楽しむお客さんも増えそうです。


5階エレベーター前のソファスペース。イスや照明器具も中村拓志さんによるセレクション


5階のお土産セレクトショップ「Tokyo's Tokyo」。什器はすべて、マンガのページやコマ割りを模している。単に形だけを模しているのではなく、表現のシステムもマンガの手法を援用している


「Tokyo's Tokyo」のプロデュースを手掛けた幅允孝さん(左)と空間デザインを手掛けた松井亮さん

5階のエレベーター前は、ソファが置かれたラウンジのようなスペース。このフロアに入る雑貨店「ハンズビー」の什器や商品はオーガニックな雰囲気のものが多く、更に店内には削り取られたような坪庭がいくつも見え、徐々に屋上テラスに近づいてきたことを感じさせます。

特にこのフロアでは、マンガをモチーフにしたお土産セレクトショップ「Tokyo's Tokyo」が、目を引きます。場所柄、海外からのお客さんも多い立地なので、訴求力が高そうです。この店のプロデュースとブックセレクトを手掛けた幅允孝さん(バッハ)と、空間デザインを手掛けた松井亮さん(松井亮建築都市設計事務所)に話を聞いてみました。
幅さんいわく、「今は、ただモノを売るだけではなく、商品をどんなふうにお客さんに差し出すか、その差し出し方が大切。このお店は、店舗什器の歴史に残るんじゃないかというくらいじっくりつくり込みました」とのこと。
空間と什器をデザインした松井さんは、今回の設計にあたって、まず200冊以上のマンガを読み、マンガのコマ割りや記号が、シンプルな表現方法によって時間の速度やシーンの強弱を表していることを発見したそうです。「マンガの表現ルールはシンプルなので誰でもすぐに理解することができます。コマとコマの距離を少し離すことで時間やシーンが別のところに移ったことを表現するといったマンガのコマ割りの手法を使って、什器をつくっています」(松井さん)。とても面白い什器なので、詳細は近く本誌にてご紹介します。


6階スターバックス。右手は、屋上テラス「おもほらの森」


スターバックス店内のソファ席

そして、階段を上がると6階は「スターバックス」。ここでも、テラスに向けて開放された空間が、屋内外の境界を忘れさせます。これは気持ちいい。しばらくは満席が続くかもしれません。。。子連れのファミリーも安心して立ち寄れそうです。店内奥には、テラスと対照的に薄暗くて落ち着けるソファ席もあります。


7階ダイニング「bills」


billsのライブラリー席

7階は、「世界一の朝食」というキャッチコピーで有名なオーストラリア発のカジュアルダイニング「ビルズ」。店内にパンケーキのいい匂いが漂っています。ビルズは、七里ガ浜、横浜赤レンガ倉庫、お台場に続く国内4店目。これまでの3店は海辺をイメージさせる出店地でしたが、今回は(おもはらの)“森”への出店です。店内は、広くて健康的なダイニングといった雰囲気。樹木を見下ろすテラス席もあり、こちらも温かいシーズンには満席が続きそうです。店内奥には、ライブラリーラウンジ風の席もあります。


おもほらの森。カウンターの中央はトップライトで、陽光がエスカレーターまわりの吹き抜けに差し込む


おもはらの森。よく探すと、数カ所に鳥の巣箱が設置されています

屋上テラス「おもはらの森」は、すり鉢状のデッキテラスになっており、中央にはカウンターがあります。イベントをする際には、客席にもなります。同じくNAP建築設計事務所がデザイン監修を手掛けた「東京国際空港 第二旅客ターミナル増床部」(2010年12月号)でも、多様な種類のイスでエリアに特徴を持たせていましたが、今回のテラスや共用空間でも、家具一つひとつをNAP建築設計事務所が選定しています。テラスには、あえてさまざま色や形の家具が置かれ、堅苦しさがなく自由なイメージが実現されています。


1階トミー・ヒルフィガー。アンティークな家具と盆栽のような樹木がインパクトを放つ


トミー・ヒルフィガー店内の階段。階段に仕込まれた照明はゆっくりと色が変わる


「ザ・シェルター トーキョー」の地下1階部分

また、路面に個別のエントランスを持つ核テナント3店は、「トミーヒルフィガー」「ザ・シェルター トーキョー」「アメリカンイーグル」。アメリカンな雰囲気が全開です。この3店は、地下1階から2階までの3フロアを使用しています。
「トミー」は、アウトドアとアンティークをミックスした内装で、商品を引き立てています。階段スペースも、ガーベッジ、デジタルサイネージ、照明効果による丹念な演出で、買い物のテンションを下げない空間です。
アウトドアなトミーと対照的に、「シェルター」は、新しい建物にいることを感じさせない隠れ家的なクラブのような空間です。空間デザインを手掛けた高村裕之さんによれば、「古い建物をリノベーションしたイメージ」だそうです。店内にはDJブースやケーキショップまで設置されています。
「イーグル」には、カラフルな商品が所狭しと並べられています。店舗スタッフ全員が、大変元気に挨拶の言葉を掛けてくれて、「明るいアバクロ(アバクロンビー&フィッチ)」といった印象でした。

表参道には、伊東豊雄さん、青木淳さん、妹島和世さん、安藤忠雄さん、そして中村拓志さんの師匠である隈研吾さんらの設計による建物が近距離に立ち並んでいますが、その表参道にまた一つ、街の要所となる商業建築が加わりました。最近は、銀座・有楽町エリアに話題の新店舗のオープンが続いていましたが、今月26日開業の「渋谷ヒカリエ」と合わせ、また渋谷・原宿・表参道エリアがショッピングの話題をさらいそうです。
〈塩田〉


新たなランドマーク


こちら渋谷ヒカリエも、もうすぐオープン



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