いつもご愛読ありがとうございます。
昨日(10月12日)、とても刺激的な内覧会へ行ってきましたので、急いでご報告します。
 
ディオール表参道の地下1階「Dior Homme(ディオール オム)」が10月12日、リニューアルオープンしました。更に、それに伴い、同ビル4階ではインスタレーション「EXCLUSIVE SPRING 2014 INSTALLATION」がスタートしました。
この二つのフロアでの内覧会です。


会場はこちら、ディオール表参道


4階のインスタレーション「EXCLUSIVE SPRING 2014 INSTALLATION」



では、まず4階のインスタレーションからご案内しましょう。
これは、タイトル通り、2014年春の新作コレクションを見せるためのインスタレーションです。手掛けたのは、ディオールのクリエイティブディレクターであるクリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)と、パリを拠点に活動するアーティスト「M/M Paris」。両者がコラボレーションしてデザインしました。
  

展示されている色鮮やかな新作商品も印象的ですが、やはり「商店建築」編集部としては、空間インスタレーションが気になるところ。
一言で言えば、最小限のデザイン要素で最大限の効果を上げている。そのような空間デザインに見えました。

どういうことか。
具体的に見ていきましょう。
主に空間を構成している要素は、細い棒状の部材のみ。部材の各面に、赤、黄、青、白という四つの色が付けられています。
商品を置くディスプレイ台の色は白のみ。形状は箱型のみ。
とてもミニマムなデザイン要素です。
 
では次に、この棒状の部材が持つ機能と効果を考察してみましょう。
まず、棒状部材のカラーやそこに掛けられたグラフィック作品のカラーは、当然ながら、置かれた新作商品に使われているビビッドなカラーに呼応しています。
更に、写真をご覧いただくと、棒状の部材が複数の機能を担っていることが分かるかと思います。ハンガーラック、ピクチャーレール、緩やかなパーティションといった機能を持っています。
ところが、この会場に実際に身を置いてみると感じるのですが、この棒状部材はもう一つの大変重要な役割を持っています。それは、「スケール感をつくる」という役割です。4階フロアは、イベントスペースであるため、天井が高く、間仕切りがなく、いわば、「がらんとした大きな空間」です。そんな空間にダイレクトに洋服や靴を置くと、どのように見えるでしょうか。想像してみてください。おそらく皆さんもこんな経験があるのではないでしょうか。百貨店の催事場などの広い空間で洋服や靴のような比較的小さな商品を見ると、どうにも商品が迫力のないものに見えてしまったという経験が。

そうなんです、この棒状の部材は、「イベントスペースの大きなスケール」と「商品の小さなスケール」の間を取り持つ機能を果たしています。つまり、大きな空間の中に部屋やクローゼットのようなスケール感を仮設的につくり出し、「洋服を見るために相応しい空間のスケール」を構築しているわけです。
  
また、このインスタレーションは、建築空間との関係性という点でも、うまくつくられています。この建物はご存知のとおり、SANAA(妹島和世+西沢立衛)の設計よるもので、レースカーテンを想起させる柔らかい表情の外観を持っており、特にイベントフロアは、ふわっとした淡い光で満たされています。おそらくこの建物には、強くて重厚感のあるデザイン要素よりも、今回のインスタレーションのように弱く儚いデザイン要素のほうが相性が良いのではないかと現場で感じました。
写真をご覧いただくと、棒状の部材にしっかりと目がとまるかもしれませんが、実物を見てみると、とても細い印象を受けます。まるで、CGで描いたワイヤーフレームのような雰囲気です。窓から見える空や景色を背景にして見ると、風景に細い線で落書きをしたような、ユーモラスな気分を味わえます。
 
会場へ足を運んだ際には、ぜひウロウロと歩きながら体感してみてください。細いミニマムな部材たちが重なり合ったり離れたりして、刻一刻と異なる表情を見せてくれます。そして、それらが、「がらんとした大きな空間」の中には存在しなかったヒューマンなスケールや遠近感を生み出しています。つまり、新しい空間の秩序を生み出していると言えます。
 
ちなみに、「なぜミニマムなデザイン要素なのか」という点に関してリアルな視点で考えれば、もちろん、「わずか数週間のインスタレーションなのだから、できるかぎり設営時間と制作コストを抑えたい」と考えたであろうことは容易に想像できるので、そのために最小限のデザイン要素を採用したのではないかと推察できます。しかし今回は、この空間デザインのポジティブな側面に光を当てながらデザイン戦略を解析してみました。
  
なお、インスタレーションの会期については、ひとまず10月20日までは確実に開催されるとのこと。ただ、その後の会期延長があるかどうかは検討中だそうなので、ファッション、ブティック、アート、空間デザイン、グラフィックデザインなどに興味がある方は、ぜひ見逃さないよう、20日までに体験しましょう。
10月終盤から11月初旬にかけてデザインイベントで青山・表参道エリアが盛り上がりますので、できることなら、その期間まで会期を延長してほしいと思います。そのくらい、多くの人に見ていただきたい興味深いインスタレーションです。





 
 
では、ここで少し休憩してください。コーヒーブレイクです。
続きは、地下1階のリニューアルのお話です。。。
 
  
 


リニューアルされた地下1階「ディオール オム」


はい、休憩終わりです。
さあ、リニューアルされた地下1階へ。
こちらは「Dior Homme(ディオール オム)」、つまりメンズフロアです。
面発光する棚什器やミラーが多用されており、シャープでクリーンでニュートラルな印象を受けます。商品の背後の壁面は白色なので、商品に使われているカラーが映えます。
空間デザインを手掛けたのは、ディオール内のデザインチーム。
 
ところで、気になったのが、フィッティングルームです。
なんと、フィッティングルームなのに、ミラーがない!
その代わり、カメラと大型画面が設置されています。写真をご覧ください。上、前、下の3箇所にカメラが見えると思います。
そうです、自分自身の姿がリアルタイムに画面に映し出されるのです。なるほど、考えてみれば、ミラーに映った自分の姿は左右反転した像ですから、このシステムならその問題は解消されます。
しかし、よほど自分の容姿に自信がある人でないと、少々照れくさく感じるかもしれません。もちろん録画はしていませんので、ご安心を。




地下1階のフィッティングルーム。3台のカメラと大型ディスプレイ


  
  
  
さて、今回もお伝えしたいことが多く、長文になってしまいました。最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ちなみに、追加情報です。
最新号の「商店建築2013年10月号」には、表参道エリアにオープンしたカフェやファッションストアが多く載っています。
具体的には、以下のお店です。

・ライラ トーキョー/セブン バイ セブン
・究竟頂/茶洒 金田中
・カシラ 表参道
・カフェ・カイラ
・グラッシェル
・ジェイド 原宿店
・1LDK /DEPOT.
・チャムス 表参道店
 
これからは、秋の気候の良いシーズンです。ディオールのインスタレーションをご覧になる際には、ぜひ晴れた一日を選んで、「商店建築2013年10月号」を片手に、表参道で商店建築ツアーをしてみてください。刺激になり、勉強になり、そして気分転換になるはずです!!
〈塩田〉




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