こんにちは。
毎月ご愛読ありがとうございます。

 
 
先週、京都へ行った際に、人気のカフェ「アラビカ」3店に立ち寄りました。嵐山店と東山店は、さまざまな国から訪れていると思しき旅人たちでにぎわっていました。まるで「東海道五十三次」の風景に描かれていた茶屋やあずまやが、現代的なコーヒースタンドとして蘇ったようで、面白い光景でした。ショッピングエリアにある藤井大丸店は、買い物客でにぎわっていました。


アラビカ嵐山店。設計は、Puddleの加藤匡毅さん。2015年11月号の表紙になったお店です


アラビカ東山店。設計は、Puddleの加藤匡毅さん。2015年3月号に掲載していますので、詳細はそちらをご覧ください

  
  
  
さて、本題に入ります。
ここ数年、「モノで演出する空間デザイン」という観点が重要になってきています。
そこで、最新号「商店建築2016年7月号」の特別企画は、「Styling & Coordinate モノで演出する空間デザインの可能性」。
この企画のエッセンスをお伝えします。
15分だけお付き合いください。
 


 
 
ショップやホテルなどの空間づくりに携わる皆さんは、最近、こんな経験をしたことがありませんか?

・設計しながら、「床、壁、天井、什器のデザインだけでは、ブランドや店の世界観が表現しきれないなあ」と感じた。
・クライアントから「棚の空いた所に置くグリーンや小物も選んでよ」とお願いされた。
・ふらっと立ち寄った店で、「この店は、小物ひとつにまでコンセプトが一貫していて、気持ち良いなあ」と感じた。
 

もしこれらの経験をしたことがある方は、以下も引き続きお読みください。
 
ここ5年くらいでしょうか。私自身、日々の取材を通して設計者の方々から、「クライアントさんに小物のセレクトやスタイリングまで依頼される機会が増えた」という声を頻繁に聞くようになってきました。
そこで、「店舗の小物コーディネート、スタイリング、アートワークって、誰がどんなプロセスで決定しているんだろう」、そんな興味がわいてきました。その興味について調べ、読者の皆さんと共有したいと思いました。
鉄は熱いうちに打て。
というわけで、それを調べて誌面にしたのが、最新号の特別企画「Styling & Coordinate モノで演出する空間デザインの可能性」です。

 
ラインアップは以下です。
 
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◆[座談会]VMD チームの「モノからの発想」が 生み出す自由なLAの空気
青山紀子、阿部隼也(ロンハーマン VMD)、吉田 幹(SO,u)
 
◆プロジェクト初期からの参画で生まれる、 スタイリング、グラフィック、空間の一体感
神林千夏、高橋紀人(ジャモアソシエイツ)

◆建築設計から小物セレクトまで、 自然に広がった設計事務所のフィールド
吉田 愛(サポーズデザインオフィス)

◆アンティークアイテムとアートワークで 生み出す空間の個性
伊吹絵理、市川紗希(イン)

◆1万アイテムの PA 業務でつくる一貫したホテル空間
紙透大悟、中村有希(クロスリンク)

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[座談会]VMD チームの「モノからの発想」が 生み出す自由なLAの空気


ロンハーマンの特別な業態「RHC Ron Herman 大阪店」(2016年2月号、撮影/荒木義久)。中央のヨットのオブジェと、左手の壁面アートに注目してください

順番に要点だけ説明します。

まず、おそらく今や誰もが知っているであろうカリフォルニア発のブランド「ロンハーマン」。
社内でロンハーマン各店のVMDを手掛ける青山紀子さんと阿部隼也さん、そして、一連のロンハーマンの店舗設計を手掛けているデザイナーの吉田幹さん(SO,u)。お三方に座談会をしていただきました。
取材に際して、一番聞きたかったことは、「ロンハーマンの店舗はいつも、『オブジェ』『商品陳列』『素材感』『空気』など、図面化できない部分が強い魅力を放っている。そんな空間は、どんな発想とプロセスで生み出されるのか」。
その質問をストレートにぶつけてきました。
その答えは、「モノから発想していく店づくり」、そして「その発想を実現するコンストラクションマネジャーの存在」です。
詳細は、誌面でのお三方の発言をお読みください。現代的な店舗づくりのヒントが盛り沢山です。
 
 
 


ジャモアソシエイツの神林さんがスタイリングを手掛けた「ニューヨーカー銀座 フラッグシップショップ」

 
続いて、インテリアスタイリストの神林千夏さんと空間デザイナーの高橋紀人さん率いる、ジャモアソシエイツ。
神林さんがインテリアスタイリングで参画した「ニューヨーカー銀座 フラッグシップショップ」(設計/ima、15年9月号掲載)は、皆さん、もうご覧になったでしょうか。インテリアスタイリングの教科書のようなショップです。未見のかたは、急いで見に行ってください。

店内をよく見ると、ダイニングをイメージした売り場スペースの棚には、そのイメージに合う食器がディスプレイされ、更にその背景に食器を表すグラフィックが描かれています。随所で、そのように「空間、スタイリング、グラフィック」が緊密に呼応しています。
なぜ、このようなことが可能になったのか。それをインタビュー前半で聞きました。
後半では、モノやスタイリングという観点からデザインを考えた場合、神林さんと高橋さんはどんなことを最近感じているか。それについて、率直に語っていただきました。おそらく、そのシンプルなメッセージから、多くの気付きが得られるはずです。
  
  
  


建築設計の一環として、コーディネートまで手掛けるサポーズデザインオフィス

次は、建築設計事務所サポーズデザインオフィスの吉田愛さん。
サポーズデザインオフィスは、ショップ、飲食店、ホテルなど多様な商空間をデザインしています。
数年前、サポーズデザインオフィスの谷尻誠さんがショップのコンペでプレゼンテーションをするところを、目の前で見たことがあります。その時、スタイリングまで丁寧に提案し、それをショップの魅力の核にしようという提案をしていたことが、非常に印象的でした。
それを思い出し、サポーズデザインオフィスの中で、設計と合わせてインテリアスタイリングもこなす吉田愛さんに取材しました。
いつ頃から、どんなきっかけで、設計だけでなくスタイリングやコーディネートといった作業までこなすようになったのか。そして、設計事務所がそれを手掛けることで、何が実現できるのか。そのあたりの視点で、インタビューを読んでみてください。
特に、設計事務所で働く皆さんには、いろいろヒントを見つけていただけるはずです。



サポーズデザインオフィス吉田さんが小物のセレクトも行い、空間設計に生かした「ヒッチハイク吉祥寺店」(撮影/矢野紀行)

 
 
ちょっと、このへんで、小休止しましょうか。
コーヒー片手に、肩の力を抜いてください。
あと2組、ご紹介します。
 
  
 


INで空間と家具のデザインを担当する伊吹絵理さん(右)と、インテリアコーディネートを担当する市川紗希さん(撮影/土田有里子)


家具コーディネートでINが参画した靴店「シャルロット」では、ユーズド家具で空間構成した

さて、次は、空間設計だけでなく、アンティーク家具のコーディネートや、国内外の作家に依頼して制作するアートワークなど、複数の手法を駆使しながら空間をつくる事務所、イン。
今回は、空間と家具のデザインを担当する伊吹絵理さんと、インテリアコーディネートを担当する市川紗希さんにご登場いただきました。
事例として紹介する、新宿で女性に人気の靴店「シャルロット」は、ユーズド家具でコーディネートされています。どんな手順と観点でユーズド家具を集めていくのか。プレゼンテーションにはどんな資料を用意するのか。そんな話を聞きました。
実際に「シャルロット」に撮影に行ってみると、棚だけでなく、ユーズド感のある味わいが出たボックス、脚立、イスなどを、店舗スタッフの方々がうまく使いこなして商品を陳列していました。こうしたショップには、オペレーションするお店の方々の力量も求められるようです。
更に、インが多く手掛けるウエディング施設も事例にして、アートワークのコーディネートに関しても聞いてきました。
 
  
  


日本にまだ多くない「PA」という業務を専門的に手掛けるクロスリンク。一つのプロジェクトで数千種類から1万種類のアイテムを選定することも

さあ、ラストとなる5組目は、クロスリンク。
クロスリンクは、デザイン事務所ではなく、ホテル計画で必要な「PA」という業務を専門的に手掛ける珍しい事務所です。
「PA」とは、「調達代行サービス」の略。タオル、石鹸、歯ブラシ、コップなどから、アートワークやオブジェまで、ホテルを開業するために必要なあらゆるモノを選定する仕事です。スパやレストランを併設する大型ホテルでは、扱うアイテム数が1万種類に及ぶという、ハードな業務です。しかし外資系の高級ホテルなどのプロジェクトでは、このPAという職能が欠かせません。そして今や、高級ホテルでけでなく、宿泊特化型の比較的リーズナブルなホテルでも、PAの能力が求められています。なぜなら、小物やオブジェ一つひとつにまでホテルのコンセプトが一貫していると、顧客が感じる満足度やラグジュアリーさが格段に上がるからです。
ホテルの新築やリニューアルが盛んな今、「モノで演出する空間デザインの可能性」という視点の特集を組むからには、PAのプロフェッショナルにも取材したい。そう考えて、クロスリンクの紙透大悟さん、中村有希さんに取材してきました。取材では、クロスリンクが現在携わっている新築ホテルプロジェクトの実際の打ち合わせにも潜入取材してきました。ケトル(湯沸し器)やドライヤーひとつにしても、5、6種類の選択肢を施主と設計者に提示しながら、各アイテムを決定していく。気が遠くなるような膨大な作業です。詳細は、誌面の写真をご覧ください。

  
  
  
  
駆け足でエッセンスだけ説明しました。
今や、床・壁・天井のみならず、インテリアアイテムを用いたコーディネートやスタイリングが、空間設計の重要な領域を占めつつあります。この特集で紹介したように、方法はいろいろあります。スタイリングのプロフェッショナルに依頼するもよし、設計事務所で手掛けるもよし。
ただし、重要なのは、「どんな視点とどんなプロセスでスタイリング業務を行うか」です。
その点にフォーカスして、今回の特集をつくりました。
これから拡大していくであろう「スタイリング&コーディネート」の領域に関して、何らかのヒントや刺激を掴んでいただけたら何よりです。
 
本日も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。〈塩田〉
 
  
  
  

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日本で唯一、店舗デザインの最新事例とセオリーが学べる月刊誌「月刊 商店建築」。
最新号は2016年7月号。
こちらでも、目次のチェックやご購入ができます。


【2016年7月号は以下のような方々にオススメです】
●「床、壁、天井、什器のデザインだけでは、ブランドや店の世界観が表現しきれない」と感じている設計者の方々。
●「どうやったら、ブランドの世界観を丁寧にお客さんに伝えられるだろう」と思案中の店舗オーナーの方々。
●「さほど大きなコストをかけずに、お店の雰囲気をリニューアルしたい」と考えているデザイナーやオーナーの方々。



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