こんにちは。
毎月ご愛読ありがとうございます。
 
さて、最新号の「月刊 商店建築」7月号。
内容が盛り沢山ですが、ひと通り目を通されたでしょうか。

今月も、最新号の目玉記事を15分で拾い読み。「立ち読みして中身を吟味している時間すらない!」という多忙なあなたに代わって、拾い読みをします。お時間ある方は、ぜひ書店で実物をご覧ください。
 
本日ご紹介するのは、7月号の巻頭新作特集に掲載されている話題の複合商業施設「KITTE(キッテ)」。
日本郵便株式会社の発表によると、3月21日に開業したキッテの来館者数が、5月31日をもって合計500万人を突破しました。
話題の施設です。
 
実は、以前のブログでも、少しキッテをご紹介しました。このとき書いたのは、記者会見の様子、完成予想CG、そして東京中央郵便局という建物についてでした。そのCGと出来上がった実際の空間を比較してみても面白いかもしれません。


ご好評いただいている「商店建築」7月号

さて、今日の話題は、シンプルです。
キッテって、どんな施設なの?
というお話。
 
 
まずは、キッテの位置付けから。
東京駅の丸の内側の駅前に広がる広場。この広場を取り囲む建物が、この10年ほどの間に次々と建て替えられました。その中で、「ラストワンピース」がキッテでした。
付近の開発は以下のとおり。

丸ビル(2002年開業。02年11月号)
丸の内オアゾ(2004年開業)
東京ビルトキア(2005年開業、06年1月号)
新丸ビル(2007年開業、07年7月号)
丸の内パークビル(2009年開業、商業施設ブリックスクエア09年12月号)
丸の内永楽ビル(2012年開業)
東京駅舎の復元(2012年完成。東京ステーションホテル12年12月号)


キッテは、「つなぐ」がテーマになっています。地区計画、空間デザイン、リーシング、いろいろな意味で。
なぜ、「つなぐ」なのか。それは、東京中央郵便局という建物が、長年、郵便物の配送によって日本全国をつないできた施設だから。事業主は日本郵便です。


キッテとJPタワー外観

三角形のアトリウムを中心とした共用エリアのデザインは隈研吾さん


撮影風景。このカットが誌面のどのカットなのか見ていただくと面白いと思います

まず、上記のとおり、これまで開発されてきた既存の街並みを「つなぐ」。
 
そして、地区計画。
キッテは、地上では東京駅前の広場から、地下では東京駅地下コンコースから、有楽町へと続く歩行者専用道の一部を構成しています。
  
次に、リーシング。
施設全体のコンセプトが、「Feel Japan」。
日本を意識したテナント構成になっています。
地下1階の食品物販フロアでは、全国各地から店舗を集めています。岐阜の名物「牛まぶし」、鹿児島のさつま揚げ、秋田比内地鶏、牛たん、沖縄家庭料理、北海道の洋菓子、京都の和菓子などなど。ヨダレが出ますね・・・。

6階のレストランフロアでも地方の名店を集めました。和歌山で獲れた新鮮な魚を使うレストラン、三重県の和牛専門店、神戸の鉄板焼き、宮崎の鳥料理、京都のおばんざい・・・。ますますヨダレが出ます。
 

そして、ようやくデザインの話です。
キッテの環境設計を手掛けたのは、隈研吾さん。
なんといっても、大きな特徴は、5層吹き抜けのアトリウム。そして、そこに面する、部分保存された東京中央郵便局の局舎。ここが見どころです。
 
アトリウムに面した各階の壁面には、日本各地でつくられた自然素材を用いています。和紙(地下1階)、サクラ材(1階)、三州瓦(2階)、織物(3階)、金属塗装の左官仕上げ(4階)、クリ材(5階)、ナラ材(6階)。

自然素材で日本各地を「つなぐ」デザインになっているわけです。それだけではありません。隈さんは、「記憶を紡ぐこと」も今回のデザインテーマの一つにしました。過去と未来をつなぐってことです。
東京中央郵便の建物は、吉田鉄郎の設計で1931年に竣工しました。ファサードは、縦横のラインが美しい。室内に露出した八角柱も、縦のラインが強調されています。そこで隈さんは、「光の空間」「線の空間」というデザインコンセプトを提示して、設計しました。
天井からステンレス製ボールチェーンを八角柱の形状で吊るしています。トップライトからの光を受けると、縦のラインが美しく浮かび上がります。しかも、ボールチェーンの吊られた位置は、かつて柱があった位置。床面にも、空調吹き出し口として、八角柱の位置が示されています。
更に、アトリウムに面した通路2面には、線状のミラーをプリントしたガラスを使用し、既存建物を映し込んでいます。ガラスに映った既存建物は、淡く柔らかく増幅し、一方、新築部分は、縦のラインだけを人々に印象づけながら、後景へと退いていくように見えます。
端正な線によるモダニズム建築を尊重した「負ける建築」です。
 
詳細は、ぜひ本誌で。
未見の方は、ぜひ現場で、艶やかな「負ける建築」を堪能してみてください。

ちなみに、JPタワー2階と3階に「インターメディアテク」という本格的な博物館があります。ご覧になった方は、「えっ? 東京駅の駅前で、こんなボリュームと迫力のある博物館が見られちゃうの?!」と驚いたのではないでしょうか。
インターメディアテクの詳細は、ただいま制作中の「商店建築」2013年9月号に掲載する予定です。ご期待ください。

 
 
 
【おまけ/ 「商店建築」的お散歩コース】

さて、最後に。
「キッテを見学に行くついでに、他にも面白い商業施設を見たいなあ」という方のために。
独断と偏見で、「商店建築」的散策リスト(丸の内編)をつくってみました。
 
・東京ステーションホテル(12年12月号)
東京中央郵便局とともに、丸の内エリアの歴史性を物語る東京駅。東京駅舎のドームの復元などと合わせて、駅舎全体を堪能しましょう。2階には「とらや」のカフェもありますから、散策途中の休憩にぴったりです。


東京ステーションホテルを含む東京駅舎


東京駅のドームを見上げる

アベリ新丸ビル店(13年4月号)
東京駅や東京中央郵便局のような歴史的建造物でなくても、そして、小さな一店舗であっても、積層された時間の重みを空間デザインで表現することができるかもしれません。この「アベリ新丸ビル店」は、その好例です。アンティーク家具や手間暇のかかる仕上げを駆使して、時間の積層を感じられる空間に仕上がっています。設計は、大澤二天さん。


アベリ新丸ビル店

・カフェサルバドール(13年1月号)
仲通りに面した大変居心地がよく利便性の高いカフェです。丸の内の客層は多様です。オフィスワーカーを中心に、買い物客、国内外からの旅行者など。そうした多様な客層に対して、どのようなプランニングが有効なのか。今年の弊誌1月号では、そのプランニング手法を図面を読み解きながら解剖しました。
設計と運営は、カフェ・カンパニー。


カフェサルバドール


カフェサルバドール店内。プランニングが大いに参考になります(13年1月号の図面集参照)

・丸の内ブリックスクエア(09年11月号、12月号)
ミュージアムと、低層部の商業施設に挟まれて、彫刻と植物に囲まれた庭園。ここも、丸の内エリアの休憩スポットとして、大変オススメです。


ガーデンが非常に気持ちいい丸の内ブリックスクエア

・コム・デ・ギャルソン
大胆なドット柄のファサードをくぐると、店内はお馴染みのコム・デ・ギャルソンの世界。店内を歩いているだけで、街を散策しているのと似た感覚を味わえます。
個人的には、併設されたカフェ「ローズベーカリー」のランチがオススメです。野菜たっぷりです。


丸の内のコム・デ・ギャルソン。併設されたカフェ「ローズベーカリー」が美味しいです

・iiyo!!(イーヨ)
丸の内から、大手町側へ少し歩いた永楽ビルディングの低層部の商業施設「iiyo!!(イーヨ)」。地下のレストランフロアは、ランチタイムにフードコートのように利用できるような運営システムを導入しています。そのために、各店舗は、共用通路に対して大きく開口できるデザインになっています。にぎわいを生む施設づくりの手法として、大変興味深いです。


イーヨのレストランフロア。オペレーションに工夫があります

・パレスホテル チャペル(12年6月号)
せっかくなので、丸の内からちょっと足を伸ばして、パレスホテルへ。ロビーで紅茶など飲みながらゆっくり過ごすのも最高ですが、空間デザインとしては、チャペルが見逃せません。乃村工藝社の平田裕二さんの設計によるチャペル。和風でも洋風でもない、絶妙なデザインテーストです。特に夕方がロマンチック。


パレスホテルのチャペル。祭壇の背景は、丸の内の夜景です

・東京スクエアガーデン
さらに、銀座方面へ少し足を伸ばして、京橋駅に直結した新しい複合施設「東京スクエア」。低層部の商業エリアには、ふんだんに植物が植えられています。オープンカフェや、隠れ家のようなテラスがあったり、居心地の良い施設です。


今年オープンした東京スクエアガーデン。植栽計画が参考になります

・歌舞伎座
今年生まれ変わってオープンした歌舞伎座。キッテと同様に、既に存在感のある建築が長年立っていた敷地に対して隈研吾さんがどんなデザイン的な解答を出したのか。そんな視点でキッテと歌舞伎座を比較して見てみても面白いかもしれません。


ご存知、生まれ変わった歌舞伎座。隈研吾さんが設計に携わっています

  
ざっと思いついたところで、散策コースを提案してみました。夏休みの丸の内や銀座エリアの散策の際にぜひ。
そして、散策の後の復習は、「商店建築」で。
面白いことに、実際の空間を見た後に、改めて誌面で図面や写真を見ると、気付くことがたくさんあります。勉強と同じで、復習すると、新しい発見があったり記憶が定着したりするんですね。
 
 
キッテ以外にも、新作の大型商業施設が盛り沢山の「商店建築」2013年7月号です。
おかげ様でご好評いただいており、書店で在庫切れの場合は、弊社ウェブサイトでも目次や掲載物件の概要をチェックできます。ご購入もできます。ご活用ください。〈塩田〉

 
  
 
盛りだくさんの7月号、ぜひ手に取ってご覧ください!
***************************************************************************************************************************


月刊商店建築7月号
新作/グランフロント大阪
   ウメキタフロア
   キッテ
   ロジラ ススムコヤマズ ショコロジー
業種特集1/ダイニングレストラン+図面集
業種特集2/ウエディングサロン

2013年6月28日発売
2,040円(税込)



RSS2.0