商店建築増刊号『コンパクト&コンフォートホテル設計論』。
発売から2週間が経ちました。

ウェブサイト、メール、FAX、お電話などで、たくさんのお申し込みをいただき、どうもありがとうございます。先ほど、Amazonさんのサイトを見たら、「7点在庫あり」となっていました。
今回は、「増刊号 コンパクト&コンフォートホテル設計論」と「月刊 商店建築6月号」の2冊同時発売であったため、弊社販売チームも手作りのポップを携えて全国の書店員さんに会いに行くなど、慌ただしくしております。
 
今日は、この増刊号に関して、制作の舞台裏を少々ご紹介いたします。
話題は二つ。「巻頭座談会」と「二色刷り」についてです。
 
2年半ほど前、大阪出張の際、「ブライトンシティ大阪北浜」というホテルに泊まりました。宴会場やレストランを持たない、シンプルな宿泊特化型のホテルです。このホテル、大変快適でした。水まわりはユニットバスではなく、「3点(バス、トイレ、洗面)」が独立している。レインシャワーもある。ベッド幅は150cm。ライティングデスクは奥行きがあり、仕事がはかどる。これで、確か1泊8000円台(ウェブ上の旅行サイトから予約)でした。コストパフォーマンスが高く、よくできたホテルだという印象を強く受けました。
このホテルは、ビジネス誌のホテルランキングで大阪エリア1位に選ばれていました。
 
その数カ月後。
ある取材でお会いしたデザイナーの方が、まさにこのホテルを設計した方でした。深津泰彦さん(ヤズデザインインターナショナル)です。聞けば、ブライトンシティだけでなく、ホテルモントレ、三井ガーデンホテル、ホテルビスタグループなどのホテルも設計しているとのこと。
そこで、思いました。「もしかすると、ここ数年のビジネスホテルや宿泊特化型ホテルの急激な進化は、大きな潮流に見えるが、実はごく一部のデザイナーの手によって生み出されているのではないか」と。
その後、日々の取材を通して調べていると、やはりそうであるらしいことが分かってきました。全日空ホテル、ホテルユニゾ、サンルートプラザなどの設計を手掛けている中根昌樹さん(メディアフォースペース)。ホテルJALシティ、レム、サードニクスなどの設計を手掛けている西尾敏靖さん(240design studio)。また、レムをはじめ、阪急グループのホテルプロジェクトなどでプロデュースを手掛けている中川誠一さん(ネクスト・エム)。
  
そこで、2011年夏頃、増刊号『コンパクト&コンフォートホテル設計論』の企画案をホテルジャーナリストの永宮和美さんと練りながら、考えました。このデザイナーの方々に語り合ってもらえば、「いまビジネスホテルの設計で何が課題なのか」「どこに着目すれば宿泊特化型ホテルのブレークスルーが可能なのか」、そんなポイントが凝縮して浮かび上がるのではないか。
そう考えて実現したのが、巻頭の座談会(P.18)です。「これからは、こんな客室をつくってみたい」をテーマに、中根昌樹さん、西尾敏靖さん、深津泰彦さんが120分以上のディスカッションを繰り広げてくれました。
さまざまな角度から話題が出ました。「なぜ客室間口のスパンが拡大しているのか」「客室機能の足し算・引き算で何ができるか」「狭くても超豪華にするという方法がある」「コンパクトさの追求ではない方向性も考えるべきだ」などなど。
 
この増刊号のテーマは、コンパクトでコンフォートなホテルを設計する際の「思考のプロセス」です。どうしてこのプランになったのか、どうしてこのデザインになったのか、どうしてこのコンペ案をつくったのか。そんな「デザイン戦略」です。
この座談会で、「思考のプロセス」に関する争点が洗い出されました。
 


巻頭の座談会ページ。スケッチや写真を交えて、これからの進むべき方向性を議論した


ホテルユニゾやサンルートプラザなど女性に人気の高い宿泊特化型ホテルを多数デザインしてきた中根昌樹さん(撮影/永井泰史)


レムやホテルJALシティなど話題のホテルを設計する西尾敏靖さん(撮影/永井泰史)


ブライトンシティやホテルビスタなど多くのホテルを設計する深津泰彦さん(撮影/永井泰史)

  
  
本日の二つ目の話題。「二色刷り」について。
カラーページ(四色刷り)でビジュアル資料主体の刊行物を多く発刊する弊社にあって、この増刊号は、二色刷りです。
なぜか。もちろんコストの問題です。設計者の皆さんは日々、「限られたコストの中で、いかにコンセプトを貫徹するか。そのために、何を取捨選択するか」と知恵を絞られていることと思います。本づくりも、まったく同じです。
四色刷りにすると、写真は美しくて見やすい。しかし印刷代は跳ね上がる。
そこで、著者(永宮氏)や発行人(弊社代表)と考えました。
この増刊号のテーマは何か。
この増刊号のミッションは何か。
テーマは、「ホテル設計の思考のプロセス」「押さえておきたい基礎的な論点」「デザイン戦略」。
ミッションは、「ホテルの設計経験が多くない方々や若いデザイナーの方々にも手元に置いてもらい、素早く論点を参照してもらえる本にすること」「宿泊客減や老朽化に悩む全国のホテルオーナーの方々にも参考にしてもらえる本にすること」。
とすれば、「思考のプロセス」を伝えることができれば、二色刷りでも良いのではないか。むしろ、価格を2000円台半ばに抑え、これからホテル設計に参入したい若いデザイナーの方々も個人用に購入しやすい価格にすべきではないか。
そんな議論の結果、「二色刷りを中心にして、巻頭にカラーページを設け、2600円に抑える」という構成に辿り着きました。
 
誌面のところどころにゆとりを設けてレイアウトをしてあります。新しく気づいたことを余白にメモしながら、自分だけのオリジナル参考書をつくり上げてみてください。私自身も早速、ホテルの取材や視察で発見したことを本書に書き込んで使っています。
本書の詳しい内容構成は、こちらをご覧ください。
〈塩田〉

  
  
  
 
【本書で登場するホテル】
ソラリア西鉄ホテル、アワーズイン阪急、ヴィアイン、ホテルブライトンシティ、サンルートプラザ、ホテルグレイスリー、グランベルホテル、ホテルカンラ京都、ホテルアンテルーム京都、ホテル東急ビズフォート、カンデオホテルズ、ドーミーイン他。

【本書は以下のような方々にオススメです】
●現在、ビジネスホテルや宿泊特化型ホテルの設計に取り組んでいる設計者の方。
●ビジネスホテルや宿泊特化型ホテルのデザインを手掛けてみたいとお考えの設計者の方。
●「このままでは競合ホテルに勝てないが、リニューアルするにも誰に何を頼めばよいのか」とお悩みのホテルオーナーの方。
●ホテル開発をしたいが、どんなコンセプトや運営スタイルで差別化を図れば良いかと思案中のディベロッパーの方。


『コンパクト&コンフォートホテル設計論』 定価2,600円(本体2,476円)



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