森 正洋の言葉。デザインの言葉。

森 正洋を語り・伝える会 著
ナガオカケンメイ 企画
発行/美術出版社
1800円+税

2005年に亡くなった、陶磁器デザイナー森正洋氏の言葉と、関係者による寄稿やインタビューで綴られた本書。氏は1950年代から、人々の生活の中で使われる醤油さしや平茶碗など陶磁器製品をつくり続けた。氏の言葉は1ページに数行が並ぶ構成で、デザインについての信念が伝わってくると同時に、読むものに自らの仕事に対する考え方を見つめ直す機会を与えるだろう。また、デザイナーやメーカー関係者によるエピソードからも、デザインというものがまだ社会で広く認知されていなかった時代から、デザイナーとして生き抜いてきた氏の輪郭が浮かび上がる。



ソーシャルデザイン -社会をつくるグッドアイデア集
グリーンズ 編
発行/朝日出版社
760円+税

「ソーシャルデザインとは何か」をテーマに、さまざまな取り組みを紹介した一冊。アートを用いて街をにぎやかにするイベント「八戸のうわさ」や、東日本大震災からの復興のためのプロジェクト「石巻2.0」などクリエーターがかかわり、コミュニティーの形成や活性化を図る活動、また、おばあちゃんの手作りニットブランド、ある街の選挙投票率向上キャンペーン、若手農家が自ら「かっこいい農業」をプロモーションしたウェブサイトなど、多様な事例が取り上げられている。
一つのアイデアが、社会=ソーシャルを巻き込みながら、より良い環境や人々の幸福を生む事例は、「現状を変えたい」という意思が原動力であることを感じさせる。それらは、人々が生きていく中で直面する社会的な課題や、いき詰まった仕組みは、個人的な取り組みによって解決できたり、変えていける可能性があることを示唆している。



建築文化シナジー『建築プロフェッションの解法』
高橋正明 著
発行/彰国社
2100円+税

若手建築家らへのインタビュー集。図らずも登場者の多くは、建築家としての在り方について異口同音に次の四つのことを語っている。「良い/悪い」の趣味的判断を超えて、社会で共有される分かりやすいメッセージを語るべき。デザインするための枠組みや状況自体をデザインすべき。アトリエ事務所のボスの作家性や主観性をベースにしたデザインを避け、プロセスに注目し、事務所全体で強いチームになるべき。フラットな人間関係で設計すべき。
これらは、とても繊細で思慮深くナイーブなスタンスと言える。センセイ然とした旧世代の建築家像とは対照的だ。彼らこそ、永田宏和氏の言及する「謙虚だけどセンスのある建築」を生み出すのではないか。なお面白いことに、海外での実務経験の多い豊田啓介氏と迫慶一郎氏だけは、必ずしもそのナイーブさを肯定していない。
新世代の日本人建築家の特性を概観できる充実した一冊。



三浦展、藤村龍至 編著
発行/平凡社新書
760円+税

昨夏に行われたシンポジウムの発言録である。建築、社会学、経済学など職域が異なり、年代も異なるパネラーがディスカッションを繰り広げた。
震災復興の現状と方向性に関する議論をきっかけとしながらも、議論の主題は、震災以前から破綻しつつあった資本主義社会のシステムへと及ぶ。高度経済成長期には、「一住宅=一家族」「プライバシー」「私有」といった概念をベースにした住宅供給システムが可能であったが、少子高齢化、人口減少、成長経済の行き詰まりなどを背景に、もはやそれは成立しないという。それに代わって、パネラーらが提示するのは、「互助的関係」「共有」「福祉」「私有と固有の折衷」「多様なシステムの共存分立」といった概念をベースにした新しい社会像だ。こうしたパラダイム転換の必要性を体感的に覚知している若年層だけでなく、むしろそれ以外の層の人々に読んでもらいたい一冊。




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