取材で訪れた東京工芸大学のデザイン演習(撮影/神宮巨樹)


アトリエ事務所を主宰している皆さん、事務所のスタッフは期待通りに育っていますか。
「スタッフが育ってくれたら、事務所の仕事のクオリティーが上がるのになあ」とか「所員が積極的にアイデアを量産してくれたら、仕事をもっと受注できるのになあ」なんてつぶやいていたりしないでしょうか。

そして、組織事務所で設計業務をなさっている皆さん、チームのスタッフや後輩の能力をうまく引き出せていますか。教育機関で教授や講師をなさっている皆さんは、どんなふうに空間デザインの指導をしていますか。

つまり、インテリアデザイナーや建築家をどうやって育てていますか。
それが、商店建築8月号の巻頭特集のテーマです。
 
タイトルは、「インテリアデザイン教育論」。
全33ページ。20人の設計者の方々が登場します。
 
少しだけ中身をご紹介いたします。というより、盛りだくさん過ぎて、少ししか紹介できないんです。


左から河合優吉さん、塩見一郎さん、大野力さん(撮影/神宮巨樹)


所員の力を引き出す方法をめぐって、激論が交わされました

まず、座談会(P.48)にご登場いただいたのは、塩見一郎さん、河合優吉さん、大野力さん。世代の異なるお三方の討論は3時間に及び、「インターン学生の採用方法」「ブレインストーミングをどんなふうに実践するか」「ロジック面とエモーショナル面、どちらを先に教えるべきか」など、日頃は聞けない話が次々に飛び出しました。


左から山本達雄さん、内田繁さん、藤原敬介さん(撮影/神宮巨樹)

つづいて、内田繁さんへのインタビュー(P.53)では、内田さんの事務所で修行を積んだ藤原敬介さんと山本達雄さんにも同席していただき、緊張感あふれる取材となりました。
「僕が事務所に入所したとき、内田さんから『オマエたちは、デザインしようなんて考えるな』と言われました」(藤原さん)
「数年後に僕が入所したときは、もっとひどくて、『オマエは何も考えるな』と言われました(笑)」(山本さん)
こんな証言が飛び出しましたが、こうした指導の真意が、内田さんへのインタビューの中で明らかになりました。その言葉には、内田さんの教育理念が凝縮されていたのです。


「意識化」「レイヤー」といった視点で、教育手法や、青木さんと所員の関係性について語る青木淳さん(撮影/永井泰史)

つづいて、青木淳さんのインタビュー(P.56)。自身の事務所から輩出した何人もの建築家が店舗デザインの分野で活躍中です。青木さんの事務所では、いったいどのようにして所員を育てているのでしょうか。
青木さんは、入所して間もない所員にもどんどん仕事を担当させます。同時に、日頃何気なく見ているような風景や事柄に対しても「意識化」して見るよう、徹底して訓練しているそうです。そうして育った所員は、青木さんにとっても、未知なる「考え方のレイヤー」となり、青木さん自身にも刺激を与えます。こうして青木さんの事務所から、いつも新しい発想の空間が生み出されているわけです。
青木さんの事務所から独立した永山祐子さん(P.57)もまた、青木さんとは違う手法で、建築を学ぶ学生たちに「意識化」のトレーニングをさせています。名付けて「ビジュアルスクラップ」。
 
 

いやぁ、まだまだこのあとも刺激的なインタビューやレポート記事が続くのですが、紹介しきれません。ごめんなさい。。。

 
さて、この夏、オリンピックをご覧になった方も多いと思います。そう、スポーツでは、監督が変わるとチームが変わります。主将の統率力でチームが強くなります。チームが強くなると、それに引っ張られて、ますます個人が能力を発揮します。
デザイン事務所も同じです。
教育の仕方次第で、事務所は強くなります。
 
では、どう教育するか。
取材を通して感じたのは、押さえておくべき教育のポイントは、おそらくわずか数点しかないということ。この特集のすべてのインタビューを通読していただくと、それが各者の発言の共通点として浮かび上がってきます。言葉で言えば、「意識化」「言語化」「リアリティー」「アイデアを出し尽くした上での検討作業」など、数個に集約できます。
ところが、教育手法や学びの方法は、無数にあります。
例えば、豊橋技術科学大学(P.58)で松島史朗さんと深津泰彦さんが担当する設計課題や、京都精華大学(P.62)で福本祐樹さんが担当する演習課題のように、実務に近い形式で、学生にリアリティーと緊張感をもって学ばせる方法。
自分のスタイルを既に強く持っている人なら、松浦竜太郎さん(P.77)のように、組織事務所で多様な得意分野を持つ何人もの上司(デザイナー)から戦略的に学んでいく方法が合っているかもしれません。山中悠嗣さん(P.78)のように、自分の構想するデザイン活動と合致する設計事務所が見当たらなければ、早くに自分たちで事務所を設立して学びながらつくっていく方法もあります。ちなみに、山中さんの言う「アイデアを三つ出す方法」は、すぐに応用できそうです。


豊橋技術科学大学での設計課題で、学生たちがつくりあげたホテル客室。実務に近い体験型のデザイン課題が緊張感を生み、学生の力を引き出す(写真提供/松島研究室)


誌面では、松島さんと深津さんが学生の課題を採点する際に使用している、20項目にわたる精緻な採点基準も公開しています


福本さんが指導する京都精華大学の設計演習では、クライアントとの交渉から施工まで、実務設計さながらの体験型授業で店舗設計の「やりがい」と「つらさ」をリアルに体験させています(写真提供/福本祐樹氏)

いま、デザイン業界は、大きく変わりつつあります。事務所のボスの“職人芸”的なアイデアでは、仕事が成立しにくくなってきました。今後、いっそうチームの強さが求められます。
その変化を教育の現場と実務の現場で身を持って感じている近藤康夫さん(P.72)は、自身の働き方も変えていこうと考えています。
また、デザイン専攻の学生を指導しつつ多くの店舗設計をしてきた往蔵稲史仁さん(P.75)も、「デザイナーに求められること」が変わりつつあると感じています。そして、その変化は、従来の平面計画にあまり興味を示さなくなった学生たちの姿に内面化されているのではないかと、見ます。
インテリアデザインの世界を長く歩いてきた近藤さんと往蔵さんが感じているこうした時代の変化には、これからのデザイン教育への大きなヒントが潜んでいると言えます。


大学でデザインストラテジーについて講義してきた近藤さんは、チーム体制でデザイン業務を手掛けることの可能性について語る(撮影/長谷川健太)


デザイン教育の現場でも実務設計の現場でも、「プランニングすることのリアリティーが変わってきたのではないか」と思いを語る往蔵さん(撮影/長谷川健太)

 
今回の特集、あまりにも面白いインタビューの連続だったため、つい長文になってしまいました。。。
 
さて、育てたい所員や後輩や学生を抱えているデザイナーの皆さん。
もし効果的でない理念や方法で彼らを教育してしまったら、時間とエネルギーの大変な損失になってしまいます。
そうならないためのガイドが、そして、更なる工夫をしていくためのヒントが、この8月号「インテリアデザイン教育論」です。
この夏は、ぜひデザイン教育の理念と手法を勉強してください。
そして、強いチームをつくって、皆さんは、更にその先のステップへと進んでください。〈塩田〉

 
 
最後にお得な情報を一つ。
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