第3回目では、上海万博で目にしたランドスケープや、屋外に設置されたアートに着目し、その様子を紹介していきたい。また、黄浦江に面した水辺公園の歩道橋のデザインは、都市の環境づくりに対する新たなアプローチと言えるだろう。

写真・文/樋口正一郎(美術家・都市景観研究家)

黄浦江に面する水辺公園に掛かる歩道橋。側面にあるスリットが途中からねじれていく“メビウスの輪”のようなデザイン

ランドスケープと屋外アートから見る万博

中国が上海、浦東型の都市開発をしているから、ランドスケープに関しても欧米型なのかというとそうでもない。特に、上海では「豫園」(よえん。黄浦区にある明代の庭園)や郊外の水の都・蘇州に見られるように水路と緑の中で生活する伝統は大事にされ、日本や西洋の都市づくりにも大きな影響を与えてきた。

その考えは上海万博でも踏襲され、世界の大河、揚子江の小さな支流・黄浦江を使ってフェリーで会場にやってくる観光客は、浦東や上灘(バンド)、人民広場周辺の雄姿をシルエットに見ながら、上海クルーズを楽しみ、期待を膨らませて上海万博会場に降り立つ。

東ゲートに近い中国庭園「宙中山水園」から始まる、黄浦江に沿った水辺公園は巨大二枚貝のような世博文化センターの裏手を通り、LEDを使った映像で人気の世博軸(大通り)の先端、噴水と花火と音楽をシンクロさせた壮大なエンターテインメントを楽しめる親水平台を挟んで西に「世博公園」をつくっている。

ここでもビオトープのような水辺づくりや現代彫刻を緑や水と対話させるような清々しいアートロード、宝鋼大舞台裏に小川をまたぐ、メビウスを模した木製の歩道橋を設けるなど、万博会場の人いきれに満ちた喧騒から離れ、ほっとできる空間となっている。〈ひぐち・しょういちろう〉

これが揚子江かと思ってしまうほどのスケールの黄浦江の右手には、新生上海のシンボル、上海ワールドフィナンシャルセンターと上海環球金融センター、そして左手には租界時代の和平飯店や上海市税関など、歴史のパノラマとスカイラインを堪能できる

中央に池があり、回遊できる「宙中山水園」。池の脇にはお茶を楽しみ、お客を招待する休憩所が明時代の様式でつくられている

中国式庭園は、自然の不思議な造形や変化など山水画の世界に自分が入り込んだように感じさせる

宝鋼大舞台裏を望むビオトープ型庭園。左手奥には対岸からのシャトル船ゲートがある

戦後アメリカの大量生産大量消費の象徴だったチューインガム。その代表格リグリーガムを上海名にし、中国の現状を少しほろ苦く皮肉を加えたのだろうか。焦興涛(Jiao  Xingtao)による作品「黄とグリーン」

公園に点々と設置されている大きな彫刻の一つ、鳥籠のような米国人アーティスト、ジョン・ルパート(John  Ruppert)による「球」。アンタッチャブルの空間は究極のエコか

小川を跨ぐスクエアな断面形状の歩道橋。一方で屋根だった部分は徐々に細くなり、反対側では左右の手すりだけになる

庭園内の案内所のすべてが花で覆われており、屋上は展望台

中国の象徴である浦東の超高層ビル群をバックに、太極拳をする人々。外灘はいつでも、観光客や地元の人々で溢れている