第2回目となる今回は、都市単位での出展が見られるEゾーン「ベストシティ実践区」の様子をレポートする。現代の都市が直面する問題とは。そして、世界に向けて発信する、都市からのメッセージを追っていきたい。

写真・文/樋口正一郎(美術家・都市景観研究家)

万博Eゾーンで目を引かれた「バルセロナ館」の映像展示は、まるで万華鏡の内部に入り込んだようだ。文化的で豊かな都市環境にくらくらする

ベストシティ実践区に見る“新しい都市の姿”

上海万博で、特に興味を引かれたのは、都市単位での出展がなされたEゾーン「ベストシティ実践区」。切実な問題を抱えた各都市による具体的な提案は、万博らしからぬリアリティーがあった。 「マドリード館」は、円筒形のイベント広場かと思わせる吹き抜けの塔と簀(よしず)のような植物で建物の外壁全面を覆った展示室。実際にマドリードの街を訪れると、すでに簀のパネルを遮光のために公共住宅に取り入れていた。そして、マドリードの住宅地で見た塔のような吹き抜けの構造物は内側に蔓植物を繁殖させ、汚れた空気を煙突のように浄化させるというものだった。

このEゾーンでもう一つ、注目した「バルセロナ館」は、ここ20年の再開発とそこで生活する市民の表情を組み合わせた多くの事例をマルチスクリーンで見せ、デザインの質の高さと多様性を誇っていた。また、“現代の村”をテーマにした「寧波ケース館」(寧波市は上海の南に位置する地級市)の、こわれかかったような建物全体を造形として見せ、公園化して遊歩道で巡らせるという構成も圧巻だった。

黄浦江を挟んで南側A、B、Cゾーンが夢と輝ける未来像とすれば、北側のD、Eゾーンは当面ぶち当たった現実をいかに解決すべきかの処方箋と言える。中国一人口密度の高い上海の人口膨張に対し、また人口13億人の中国を支えた巨大造船所、港湾施設や産業施設も移転せざるをえない状況に対し、展示施設、文化施設への転用には中国らしい大胆な表現はまだ見られない。 〈ひぐち・しょういちろう〉

「マドリードケース館」。一見すると旗は上がっており、サーカス小屋にも見えるようなつくり

同館では、庇の横から汚れた空気を吸い込み、浄化して上方に吐きだすシステムを採用、また広場として涼しい空間を演出している

「マドリードケース館」では、パビリオンの廊下も徹底して簀(よしず)のような素材で遮光している

「バルセロナ館」のマルチスクリーンによるパフォーマンス

「寧波ケース館」には田んぼがあって、ちょうど訪れた時、蝶を数百匹放つパフォーマンスに遭遇。桃源郷の演出には感嘆した

同館では、壁のパーティションを利用して水槽に金魚を放し、あたかも空中で金魚が泳いでいるかのような幻想的な風景も見せる

植物のパッチワークとガラスの壁に滝のように流した水をコンピュータ制御し、ビルを冷却しようという「アルザス・ケース館」

建築の外側のフレーム上にスクリーンを巻き、ビルをさまざまな色に変化させる「韓国ビジネス館」

中国最大手の鉄鋼メーカー・バオスチール(宝鋼集団)。鉄錆からアートへの大転換。巨大空間は見もの

黄浦江に面したドック。水を干し上げ、地下3~4階の底を野外ステージとして、主にパフォーマンス会場に使っている