ロビーで改修プランについて打ち合わせをする大塚さん(右)と服部さん。お二人ともダンディーな紳士です


昼過ぎ、ロビーに入ると、大塚さんが分厚い図面の束を広げて服部さんに説明を始めたところだった。これまで大塚さんと服部さんは何度も打ち合わせを重ねてきており、ほぼ最終プランが出来上がっている。

大塚さんが手にしている分厚い図面の束には、現状の図面と改修案の図面が入っている。もうフロントカウンターの行灯のディテールまで詳細に描き込まれている。図面を指しながら、柱の位置、配管、電気配線、残す部分と変える部分などをテンポ良く説明。服部さんとはかなり意志の疎通が取れている様子でスピーディーに説明が進む。

「設備面の大きな変更はありますか?」(服部さん)
「浄水槽の新設も予定に入れています。ただ、地下1階が居酒屋ですから、1階の床下には何本もダクトが走っています。その位置を工事前に再確認しておく必要があります」(大塚さん)


ひとしきり設備関係のポイントを伝え終えた後、続いてデザインの説明へ。
「この立地は、神田明神も近くて江戸の歴史を感じるでしょ。でも露骨な江戸じゃなくて、抽象化された江戸、それが今回のデザインテーマになります。エントランスには光
り壁を設けて、草のような江戸紋様のレーザーカットフィルムを貼り、内照させます。そして、このグラフィックをチェックインカウンターでも使って連続性を出します」(大塚さん)


特に、1階ロビーの空間については、空間の使われ方を丁寧に説明。
「1階中央の柱まわりには、エスプレッソマシンを置くカウンターを設置します。このエスプレッソカウンターとチェックインカウンターは、白い人造大理石で、ダークな空間の中で浮かび上がるようなアクセントとなります」
「現在ソファスペースになっている部分には、ハイカウンターとベンチ席とスツールを用意して、軽いミーティングにも使ってもらえるようにしましょう」(大塚さん)
「エスプレッソをロビーで飲んでもらってもいいし、客室に持って行ってもらってもいい。そんな使い方をしてほしいですね。となると、カップの蓋を置くスペースも必要だなあ」(服部さん)
「それも、考えてあります」(大塚さん)


特に、カラーリングと照明の雰囲気については、丁寧に服部さんに伝える。
「白、ベージュ、そして茶の入ったグレー。ロビーも客室も、こういう柔らかい色味を中心にしましょう。そこにメリハリのある光を当てると、空間に広がりが出ます。どうしても面積が限られていますから、ここでビビッドな色を使うと、空間が狭く見えてしまうんです。廊下はブラックでいきましょう」
「空間に広がりを持たせるには、素材感も重要です。のっぺり見えてしまう塗装はやめて、木目、タイル、クロスを中心に使おうと考えています。クロスも、
凹凸のある和紙のような奥行き感のあるものを使って、そこに柔らかい間接光を当てる」
「ここの客室は、面積が広いわけではないけれど、よく見ると天井が高い。これは使えます。凹凸系クロスと間接照明で壁面の上部をふわっとした演出にすれば、天井高が生かされて、部屋に広がりが出てくるはずです」(大塚さん)


客室のクローゼットについても、省スペース化の方法を説明。「オープンクローゼットにして、姿見などと一体化させてコンパクトなユニットにしてしまいましょう。そうすることで、部屋に広がりが出ます。そして、クローゼットは、ユニット化して搬入すれば、工事の際に現場作業も減りますし、騒音も防げます」(大塚さん)


ホテルは年中無休24時間営業だから、メンテナンス性も重要だ。
「ロビーの地明かりにはLEDを使い、必要に応じて、蛍光灯も使いましょう」(大塚さん)
「LEDが実際にどのくらい超寿命なのかは、まだ未知数だけれど、メンテナンス回数が減るのは大事ですね。もちろん消費電力の削減も重要だけれど、お客様が泊まっている途中に照明が切れるということが少なくなるのは、ホテルとして嬉しいです。どうしても照明が切れる時というのは、お客様が泊まっている時間帯が多いので、お客様に不快感を与えてしまう」(服部さん)



現状のロビーの様子



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