5月号/物販店は今、「半・日常」へ向かっている?!
2014/05/22 月刊商店建築
こんにちは。
毎月ご愛読ありがとうございます。
今日のテーマは、「いま、物販店のデザインは『半・日常』へ向かっている?!」です。
その前に、街歩きの話題を一つ。
5月の東京は、爽やかで温かい日が多く、思わず散歩したくなりますね。というわけで、吉祥寺の街を散策してきました。もちろん、街歩きを100倍楽しくしくれる重要アイテムとして、この手描きマップ(写真下)を持って歩きました。
ご存知の方も多いと思いますが、この手描きマップは、弊誌で好評連載中の「東京インテリアツアー」のものです。浅子佳英さんと安藤遼子さんによる手描きマップ。最新号「商店建築5月号」の206ページをご覧ください。連載第9回目のツアー対象エリアは、「中野、高円寺、吉祥寺」。その回の地図を持って実際に吉祥寺を歩いてみました。街歩きとインテリア探索、その両方ができてしまう楽しい地図。
地図中に掲載されているお店をすべて見学しましたが、特に強く印象に残ったのは、「ラウンダバウト」「アウトバウンド」でした。知る人ぞ知る有名店。どちらも、落ち着いた雰囲気の空間で、洋服、文具、食器などの生活道具を売っているお店です。この2店は、同じオーナーさんが運営しています。
濃厚な趣味性←→節度。
センスの良さ←→日常的な生活感。
緊張感←→リラックス感。
店主の感性←→普遍性。
「ラウンダバウト」「アウトバウンド」においては、それらのパラメーターは絶妙な位置に設定されているように見えます。その結果として両店は、強い世界観を放っています。具体的に言うと、床壁天井、什器、ディスプレイ、商品が、判別しがたいほど混然一体となり、それらが一つの世界像を生み出しています。
さて、この2店から強く影響を受けて生まれた店が、渋谷にあります。
ジャンル横断的に生活雑貨を扱う「アルチヴァンド」です。「商店建築2014年5月号」の145ページをご覧ください。
「アルチヴァンド」店主の神谷智之さんは以前から、流行り廃りとは関係のない良質なものを編集し提案していく場、作り手と使い手が出会えるような場を持ちたいと構想してきました。そんなある日、神谷さんは、「ラウンダバウト」「アウトバウンド」を訪れて衝撃を受けたそうです。そして、「ラウンダバウト」「アウトバウンド」の経営者、小林和人さんの協力を得ながら、「アルチヴァンド」を開業しました。
神谷さんが掲げた理念について、ご興味ある方は、「商店建築2014年3月号」221ページの連載「商空間オピニオン」をご覧ください。その価値観に共感する方は、きっと少なくないと思います。
さて、最新号の「商店建築 2014年5月号」は、この「アルチヴァンド」を含む「専門店」特集です。
掲載店舗のラインアップは以下のとおり。
【業種特集1 / 専門店】
函館 蔦屋書店 梓設計
セルフ アンド シェルフ ロフト アトレヴィ大塚店 廣村デザイン事務所 モーメント
銀座エバンス 西脇一郎デザイン事務所
イソップ 河原町 トラフ建築設計事務所
遊 中川 本店 宮澤一彦建築設計事務所
ファーマシー イー・エム 丸の内店 e.m.
フォーナインズ 大阪タカシマヤ店 吉田健太郎デザインスタジオ
ゾフ 三井アウトレットパーク入間店 emmanuelle moureaux architecture + design
オリバーピープルズ代官山 Larry Leight Ilan Dei Studio
宝永堂 コレクション 丹青社
アルチヴァンド 神谷智之
「アルチヴァンド」の他にも、濃厚な世界観を放っているお店があります。
「ファーマシー イー・エム 丸の内店」です。5月号の129ページをご覧ください。
これは、ジュエリーブランド「e.m.」によるセレクトショップです。「e.m.」のデザイナー、仲谷英二郎さんと飛田眞義さんによってデザインされたショップです。ここもまた、床壁天井、什器、ディスプレイ、商品が、判別しがたいほど混然一体となり、一つの世界観を生み出しています。例えば、店内に設置された動物の剥製や瓶は、ディスプレイの役割を果たしていますが、商品として購入することもできます。
「アルチヴァンド」や「ファーマシー イー・エム 丸の内店」に、ぜひ実際に足を運んでみてください。空間、什器、ディスプレイ、商品が生み出す濃厚な世界観に身体を浸すと、あなたはきっと、五感で快感とワクワク感を味わうことができるはずです。とても気持ちの良い体験でしょう。この感覚は、ネットショッピングでは味わえません。
こうした、強い世界観を持ちながらジャンル横断的な商品を取り扱う店舗を、「商店建築 2013年9月号」の特集「ライフスタイルストア研究」で集中的に掲載しました。
ところで、あなたは、「空間、什器、ディスプレイ、商品が一体となり一つの濃厚な世界観を生み出している」と聞いて、何を連想しますか?
おそらく、テーマパークを連想する方が多いのではないでしょうか。
確かに、「アルチヴァンド」のようなショップもテーマパークも、規模こそ違えど、統一された一つの世界観に身を浸すという非日常的な体験を提供してくれる点では共通性があるように見えます。
では、「アルチヴァンド」のようなショップは、テーマパークと何が違うのでしょうか。
一つは、依拠する世界像の違いです。多くの場合、テーマパークが依拠している世界像は非日常的(例えば、夢の国や外国の街など)です。一方、「アルチヴァンド」や「ファーマシー イー・エム」のようなショップが依拠する世界像は、私たちの日常生活と地続きです。
もう一つの違いは、素材が本物であるか否かです。テーマパークを構成する要素は、ほとんどがフェイクと言えます。けれど、「アルチヴァンド」や「ファーマシー イー・エム」のようなショップは、内装においても商品においても、鉄板、古材、陶器などの生々しい本物の素材感で構成されています。
そんなわけで、「アルチヴァンド」や「ファーマシー イー・エム」のような、「非日常性」(統一感)と「日常性」(生活感、生々しい素材)を併せ持つ店舗の在り方を、「半・日常的」と呼んでみたくなります。(勝手な造語です、すみません。。。)
では、「半・日常的」なショップの魅力は、どこにあるのでしょうか。
おそらく、「ここでしか買えない商品」「ここでしか体験できない空間」を提供してくれるという点にあるのではないでしょうか。(「アルチヴァンド」や「ファーマシー イー・エム」はセレクトショップなので、厳密には「ここでしか買えない商品」ではありませんが。)
とすると、次に考えたくなるのは、「ここでしか買えない商品」「ここでしか体験できない空間」を志向している店舗は、「アルチヴァンド」や「ファーマシー イー・エム」のような濃厚な個性が漂う店舗だけなのでしょうか。
実は、そうではありません。
最新号5月号の116ページに掲載されている「セルフ アンド シェルフ ロフト アトレヴィ大塚店」をご覧ください。
「セルフ アンド シェルフ ロフト」は、LOFTの新業態で、文具を中心に扱うコンパクトな店舗です。スッキリした床まわりや、商品を探しやすいサイン計画が印象的で、店内に足を踏み入れてみると、「通常の物販店とは何か違う空間だ」と感じます。
「セルフ アンド シェルフ」のディレクションを手掛けた廣村正彰さんにコメントを伺ってきました。
セルフ アンド シェルフは、「立地に合わせた商品構成やオリジナル商品の拡充を図っていく」業態だそうです。また、廣村さんは、これからの物販店の在り方について、「個人商店のように、店長やスタッフがオススメの最新商品を黒板に書きアピールするといった、もっとアナログで人間的な要素が求められるだろう」と言います。
廣村さんが、「『ロフトが志向する現代の店舗形態』の一つになりえている」と評するセルフ アンド シェルフは、品揃え、コミュニケーション体験、空間性において、オリジナリティーを追求しているショップと言えそうです。つまり、「ここでしか買えない商品」「ここでしか体験できない空間」を志向していると言って良いと思います。
すみません、また長文になりました。
というわけで、今回の専門的特集では、個々の店舗の空間デザインや什器計画も重要ですが、それと同時に、「いま物販店づくりは、どんな方向に向かっているのか」という視点で誌面を眺めてみてください。いろいろな発見があると思います。
もう一度整理しておくと、取材を通して感じたのは、
「半・日常的」
「ここでしか買えない商品」
「ここでしか体験できない空間」
といった点でした。
その他にも、巻頭の新作特集には、「ドーバー ストリート マーケット・ニューヨーク」(デザイン/川久保玲)、「ルイ・ヴィトン タウンハウス」(デザイン/キュリオシティ」などのブティックも掲載されています。
つまり、物販店の設計を通して、「その店舗を訪れなければ味わえない魅力的な空間をいかに実現するか」という課題に取り組んでいるあなたにとって、5月号は必読です。
日本で唯一、店舗デザインの最新事例とセオリーが学べる月刊誌「月刊 商店建築」。
最新号、5月号が書店で発売中。おかげ様で、ご好評をいただいております。
こちらでも、目次のチェックやご購入ができます。
今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
〈塩田〉
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商店建築2014年5月号
新作/あべのハルカス 近鉄本店
ドーバー ストリート マーケット・ニューヨーク
ルイ・ヴィトン タウンハウス
ザ・リッツ・カールトン 天津 ゼスト/テイタイケン/フレア
特別企画/にぎわいを生む飲食店のデザイン作法
業種特集1/専門店
業種特集2/クリニック
表紙:ドーバー ストリート マーケット・ニューヨーク
2014年04月28日発売
¥2,100
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